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コブタは一陣の風のように

「これからはコブタが来るんですよ!」


と三ツ谷が叫んだ。

 
「コブタ~?」
社内の全員が口をそろえた。

 
ここは、オリジナルのアクセサリーを作ってネット販売している会社だ。キャラクターデザインの部署の新人、三ツ谷は、胸を張って滔々と語りだす。
このコブタがいかにかわいいか、時代を読むと、次に来るのは絶対にコブタだと……。
 

「三ツ谷くん、どれ? ああ、かわいいね。でも……。」
三ツ谷の上司の森屋は、キャラクターをチェックする。
でも、コブタで、ムーブメントが起こるだろうか?

 
気づけば三ツ谷は、社長に直談判をしていた。
3時間が経過……。とうとう、社長が根負けした。

 

「よし、そこまで言うなら、ひとつだけアイテムを作って、サイトに載せてみよう。」



三ツ谷は熟考の末、ピアスを選んだ。発注をかける。サイトに載せる。
さあ、どうなるか。

 
すると……。

「社長! コブタピアスがものすごい勢いで売れています!」


Web担当者が、大声で言った。
 

「このままだと、すぐに売り切れます。再発注、かけましょう!」
「そうか。じゃ再発注よろしく! 三ツ谷! コブタシリーズをもっと作れ!」


 

「はい!」


三ツ谷は、コブタペンダント、コブタTシャツ、コブタTOTOバック、コブタハンカチ、コブタさいふなど、いくつものコブタグッズをつくった。
それがまた、飛ぶように売れる。

 

「本当に時代はコブタだったんだな……。」


と社長がつぶやく。
 

「社長! 購入者を分析すると、老若男女に売れています。お年寄り向けのグッズもありかと。」
「よし! 三ツ谷、お年寄り向けにも作れ!」


 
そこで三ツ谷は、コブタ入れ歯入れ、コブタふくさ、コブタ風呂敷にコブタお位牌、コブタ杖にコブタ老眼鏡まで作った。

 
それらが、おもしろいように、売れまくる。
今や、渋谷でも巣鴨でも、コブタグッズを持っている人であふれている。こんなヒットは、社内でも初めてだ。
 

「よーし! 単価の高いものも作るぞー! 三ツ谷! コブタベッドにコブタ電動自転車だ! オレは今からトヨタを口説いて、コブタ自動車を提案してくる!」


 
社長は勢いづいている。
 
しかし、コブタベッドの発注をかけようとした、そのときである。
 
 

「社長―! コブタが、コブタグッズの売り上げが、みるみる下がっています!」
「なにぃー?」


 
「……きっと、売れすぎて、みんなが持っているからイヤ、となってしまったんでしょうね。」
と森屋。
 
 
「コブタは、我が社にとって、はかない一陣の風が吹いたようなものだったんだな……。」
と、社長が言う。
 
 
三ツ谷が恐縮して言う。
「すみません、社長! つぎは一陣の風にならないキャラクターを考えますので!」
 
「いやいや、けっこう儲かったからいいよ。やっぱり、キャラクターが根強く人気があるサンリオって、偉大な会社だわ。」


そうして、静かな日々が戻ってきた。
皆、仕事にいそしんでいる。
 
 
1か月後。
 
ぷるるる。
 
1本の電話が鳴った。
 
「はい。×〇カンパニーです。」
事務の正木が受けた。社長の奥さんからだ。

すると、正木はものすごく驚いた顔をして、

「社長! テレビをつけてください!」


 
と叫んだ。
 
慌てて、社長はテレビをつける。
すると画面には、今日来日したアメリカの世界的な超大物シンガーが、コブタピアスをしている姿が見えた。
 

「コ、コブタや……。」


いつもは隠している関西弁が出てしまった、三ツ谷。


 
それと同時に、すさまじい勢いでコブタグッズが売れはじめた。

「再発注だー! 急げー!」
「コブタピアスは、10万個でよろしく!」
「アクセス数がすごくて、サーバーがダウン寸前ですー!」
「電話が、電話が鳴りやみませんー!」
 


 
1年後。
〇×カンパニーは自社ビルを建てた。
三ツ谷は、副社長に昇進。
事業部長は欧米統括部長に、森屋はアジア統括部長へと出世した。
 
コブタグッズはアメリカをはじめ、ヨーロッパ、アジア、中東にも売れていった。

そしていまや、ミッフィーやキティと並ぶ、世界的なキャラクターとなっていた。
 

社長「コブタは一陣の風どころじゃなかった。どえらいハリケーン級の破壊力があったんだ。

よーし! 今度の社員旅行は、ドバイだぞー! 飛行機はファーストクラスな!」


 


社員一同「はい!」


 

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