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あなたにとって診察室(主治医)はホームですか?それともアウェイ?

■患者さんにとって、ホームの診察室とは?アウェイの診察室とは?

第67回日本糖尿病学会が5月17〜19日まで開催された。今回初めての試みとして、会長特別企画「糖尿病と共に生きる人々の声を聞く」https://site2.convention.co.jp/67jds/special.html)が

が開催された。専門医や糖尿病ケアのエキスパートたちに混ざって、糖尿病をもつ人たちの参加が認められ、糖尿病を持ちながら生活している当事者がその体験を語り、多くの医療専門職はそれに聴き入りながら、より良い糖尿病ケアの実現に向けて、みんなで率直に語り合った。まさに学術集会という場で専門家と当事者が対等に語り合う場であった。その場に居た多くの人たちがFBに感想をアップしているが、まさにアドボカシー元年ともいうべき画期的な出来事だった(やっと米国糖尿病学会に一歩近づいた)。その1日目、運営スタッフでベテラン1型糖尿病当事者でもあるNさんは、コメントに立ったドクターに次のように言った。
「病院は私たち患者にとっては基本アウェイですから。ホームは患者会です」
このコメントは会場にいた多くの人たちにとても印象に残ったようで、3日目の会場で、今度はコメントに立った当事者から「私の場合、病院はホームです」と発言する場面があった。

■患者さんにとって「ホーム」となる診察室ってなんだろうか?

そこであらためて、診察室におけるホームとアウェイについて考えてみた。
皆さんにとって、診察室は「ホーム」になっているでしょうか?
Nさんは私信で次のように説明してくれた。

この発言は、基本的に「発症初期で、まだ右も左も分からない状態の当事者の方」にフォーカスしたつもりでした。医療者ではない、ごく普通の一般人が糖尿病を発症した場合、両者の間の「“糖尿病”に関する知識量」には圧倒的な差があります。そのような状況にあって、「糖尿病についての最初の印象」は、初診時の医療者と医療機関が決定付ける…と申し上げても過言ではないと思います。ありとあらゆる要素が、ほぼすべて医療者による判断に左右される。そのような状況を指して、私は「アウェイ」と申し上げました。

ホームとは少なくとも「思ったことがなんでも言える」、さらに欲を言えば「素の自分をすべて出せる」というレベルになっているのが理想的といえるだろう。
「毎回、言いたいことを我慢して、言葉を呑み込んでしまっている」としたら、それは主治医を変更するか、あなた自身が勇気を出して、その均衡を破る努力が必要だろうと思う。
僕の場合も、すべての患者さんにとって「ホーム」と感じてもらえているとは思えない。毎回の診察室で「いつもと同じです」を繰り返す人がおられるが、そうした方にとっては「ホーム」である筈がないと言えるだろう。
外来を始める前に予約表を見て、名前からすぐに顔が思い浮かんで、「今日はどんな話を聞けるだろうか?」と少し胸がわくわくする人たちはたくさんいる。僕にとって、外来診察は喜びの時間でもある。毎回、多くの患者さんたちと心を通わせる時間を持つことができるのだから、医者冥利に尽きる。今日も万年10%越えだったのに最近の8ヶ月間ずっとA1c7%が続いている独身男性がいらして、「いつもと同じです」と言うので、「この8ヶ月間の画期的な変化を見れば、同じではないことは明らかでしょう!昔の自分とどこが違うのか、言語化してみなさいよ」と言ったら、苦笑しながら説明してくれた。こんな瞬間は外来医の喜びだ。

■結局、その人のことを『好きになる』ことが絶対条件

患者さんにとって「ホーム」である条件はいろいろあると思うけれど、僕の場合、「その患者さんと会うのが楽しみ」「その人の生活や心の変化を聞くのが楽しみ」ということが「ホーム」の前提条件のような気がしています。簡単に言うと「その人のことを『好きになる』ことなのではないだろうか?

■アドボカシー運動を如何に全国に拡げるかが今後の課題である

今回は糖尿病診療について述べてきた訳だけれど、どの診療科でも同じようなことが言える訳ではなく、それぞれの診療科の文化が尊重されなければならないことは言うまでもない。例えば、僕は日頃、循環器科と併診することが多いのだけれど、循環器科は糖尿病科とは正反対で、かなり手厳しい指導が行われていることが多いように感じられる。アドヒアランス(主体性)がより重要な糖尿病科とコンプライアンスが重視される循環器科、人生を生きることを支援する糖尿病科と急性増悪、心血管死を抑止しなければならない循環器科という異なった疾患文化がこうした違いを生んでいるのかも知れない。今回の学会で、僕たちははじめて専門家と患者が対等に対話する場面に出会った訳だが、日本全体を見渡せば、まだ糖尿病を持つ多くの人たちが必要以上に禁欲的な指導を受けたり、また循環器科のようなコンプライアンス優先の指導を受けているという現実があることを忘れてはならないと思う。今回の学会の成果をここだけで終わらせることなく、如何にして日本全体に拡げていくかが、今後僕たちに課せられた課題であると心に誓った。

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