見出し画像

植物少女

読み終わった時、長く深く、息を吐いた。

リアルなんだよなぁ。全部。
マカロンを吐き出すくだりとか。
植物状態の人がこんな感じなの、全然知らなかったから単純に新鮮だった。
自分で咀嚼して飲み込んだり、突然目を開けたり、腕を振り回して骨折したりするのは想像した事がなかったし、知らなかった。

自分が生まれて物心着いた時にはもう、植物状態になっていた母親。
みおは「その母親」しか知らない。
そうなる前の母親を知る大人たちが母親のことを語っても、不自然で受け入れられないでいる。
知らないのだから仕方がない。

この物語はみおが母親の元で大人になっていくまでが描かれている。
思ったのは、どんな形であっても娘と母親はちゃんと娘と母親なのだ、という事だ。
その成長過程でみおは、ちゃんと甘えたり、後悔したり、慈しみあったり、何もしなくてもただそこに存在するだけでちゃんと、母親は母親として機能する。
それが本当に素晴らしい。
凄いことだと思う。
想像以上に素敵な母娘の話だった。

そこで何十年も寄り添う家族。
見守る看護師の胸中も様々で、いくつも出てくるエピソードの全てが本当に起きたこと(又は今なお起きていること)なのかもしれない、と思う。
そんなこともあるだろうな、と思うのだ。
最後の方でちょっとキュンとするエピソードがみおの口から語られるのだが、それを聞いたあっ君の母親の感想がまた、リアルなのだ。
そうかー、日々寄り添っている身内はそう思うだろうな、って。
(読んでない人はなんのことか分からないと思うのですが読んだ人だけ共感してくれれば……!)

朝比奈秋さんの作品は二作目で、サンショウウオの時も思ったけれど、物凄くリアルで具体的でびっくりする。見てたのかな、っていう。医師であるからこそ見聞きすることはあれど、どんな感性してたらそこまでリアルな心情までこんなに丁寧に描写出来るんだろう、って思う。
凄いな。
面白かった。



「生きる」という事に、可哀想も何も無い。
人々が寄せる上辺だけの憐憫など、取るに足らない。
こんなにも豊かで、懸命な人生があるのだ。
どこかに本当にあるだろうその生活を想像して、静かに私は打ちのめされた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?