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人たらしについて

面白い映画を見た。

最近は分かりやすい映画がヒットしている。
説明もしつこいほどちゃんとされ、登場人物はどんな状況でも感情をしっかり言葉にして口に出し、鑑賞した人は全員が同じ感想にたどり着くような作品がヒットする。
そういう作品が多い中で、これはあまり親切ではない方の映画だと思った。
そういう映画のほうが、自分は好みなのだけれど。

鑑賞した人はそれぞれに考え、様々な結論にたどり着くだろう。辿り着かない人もいるし、そもそも考えない人もいるだろう。考えたくもない人もいるかもしれない。目をそむけたくなるような、残虐なシーンが多く描写されるこの映画は、見たことを後悔し、見なかったことにしたいと思ってしまうほど、だ。

感想を書き留めたいと思ったのは、私がたどり着いた結論をちゃんと忘れたくないと思ったからだ。
ちゃんと忘れたくない。
ちゃんと覚えておきたい。
なぜなら、この映画に出てくる残虐な主人公を、自分は知っている。よく知っている。

この人は「人たらし」だ。
この人について、私は書かなくてはいけない。

「人たらし」について、書こうと思う。
「人たらし」という種類の人間が、この世には存在する。
どんな人か。
誰しも一度は遭遇したことがあると思うが、それがそうだと気付く人は少ない。
初めに断っておくが、別に「人たらし」は悪い人ではない。まぁ中には悪い人もいる。でも基本、その能力を悪いことに使おうという人は少ないと思う。世の中のほとんどの人間が善人で、ほんの一部に悪人がいるように、ほとんどの人たらしもまた、善人だ。

ただし、だからこそたちが悪い。

どんな人を人たらしと言うのか、個人的な持論を書いていく。
私の周りにいる(いた)人たらしの特徴。

・まず、人当たりがいい。
誰にでも気さくに、笑顔で話しかける。どちらかと言うと人懐こいほうだが、品があるので嫌な感じはしない。見た目は地味だが小綺麗。
いつもご機嫌で、誰にでも分け隔てなく接し、挨拶はきちんとする。
年上の人にはかわいがられ、年下からも信頼を得やすい。

・自分に化しているルールがある。
ルールというか、哲学。自分の中に美学がある。容姿の美醜に関係なくナルシスト。自己愛が強く、自分は当然のように周りに愛される存在であり、社会に必要とされていると思っている。
しかしその美学やルールを人に強制するようなことはしない。

・決断力がある。
判断を強いられた時に迷わない。直感がだいたい正しい。(自分にとって正しい、という意味)
選択を間違わない。
もっと言うと、どの選択をしたとしても「正しかった」「ベストの選択だった」と思う結果に辿り着く行動力がある。

・ヒーローではない
物語の主人公にはならない。なるとすれば、どちらかというと悪役になりがち。主人公を際立たせる席に、自ら座りに行く。

・視座が高い。
プライドはそこまで高くないが視座が高い。
人と自分が違っていても、それは当たり前なので争いにはならない。
ゆっくりと時間をかけて相手との信頼関係を築いていく。ちゃんと相手のペースやレベルに合わせてコミュニケーションをとることが出来る。

と、ここまでみると、ただの「魅力的ないい人」なんだが、人たらしのやっかいなところはこの能力を使って「人をコントロールしようとする」所だ。

映画に出てくる主人公が、まさにそれだった。
映画の中で彼は、どんな人とも仲良くなっていく。
知性があり、品があり、コミュニケーション能力が高い。話もうまい。みんな彼を好きになり、自らコントロールされに行く。
それが心地よいからだ。

その人に足りないもの、その人が欲している言葉や行動が瞬時にわかり、それを与えることが出来る。
相手を「特別」にしてあげることが出来る。
どんな人も。

映画の主人公は、自分の快楽(ターゲットを決めて仲良くなり、なぶり殺すという快楽)を満たすためにその能力を使った。それが物語になった。

裁判官に「捕まらなければ、同じ事を繰り返しますか?」と聞かれ、「すると思います」と答える。
「そういう形でしか人と関わることが出来ないので」と。

そういう形でしか、人と関わることが出来ない。

人の命を奪うことは良くない事だ。
主人公はそれもわかっている。ちゃんと自覚している。
ではなぜ、そうまでして殺人を犯すのか。
そうまでして、人と、関わるのか。

孤独、だと思った。
彼は孤独なのだと。

キルケゴールは「絶望は死に至る病」と述べたが、孤独もまた厄介だ。
彼は理解者が欲しかったんだと思う。
人を巻き込み、傷付け、コントロールし、孤独から逃れたかったのでは無いだろうか。

裁判では勿論死刑を求刑される。
その判決を正当だと彼も受け止める。
だが、大きく深い孤独を抱えたまま、その生涯を終えることにあらがった。
これはそういう物語だった。

作品のタイトルは、
「死刑に至る病」です。
興味があればぜひ、どうぞ。


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