Jump Up, Super Star! いいよねっていう話

劇中歌からしか得られない栄養素ってありますよね. 最近はもっぱらインストからしか得られない栄養素ばかり摂取しております森栖檸檬と申します. 今回はゲーム音楽史に名を残すであろう大名曲Jump Up, Super Star! の軽〜い分析とここ好きポイントの列挙みたいなことをやっていこうと思います. Let's do the Odyssey!

Jump Up, Super Star! はスーパーマリオ オデッセイSUPER MARIO ODYSSEYの主題歌と言うべき楽曲で, 作曲は同ゲームのリードコンポーザーの久保直人, 編曲はジャズアレンジャーの代表格の村田陽一となっております. 発売時点で26年の歴史を持つマリオシリーズで初のボーカル曲であり, めちゃくちゃ気合いが入りまくっております. この曲の制作に関する話がそこらへんに転がっていたので貼っておきます. はえ〜ってなったのでおすすめです.

ここから先の用語は一般的と思われるものを使っているつもりですが, なんかわかんないのがあればSoundQuestを見ましょう.

さて, 楽曲を分析する際に手取り早いのはやっぱり和声かなと思うのでまずはコード進行について見ていこうと思います. 耳コピしてもよかったのですが, すでに開拓者がいたので遠慮なく使わせてもらいましょう. テンションが合ってるかはわかりませんが, まあ合っているということでやっていきます.

https://ja.chordwiki.org/wiki/Jump+Up%2C+Super+Star%21

全体的に, メリハリのついた進行になってますね. インスト部分はザ・ビッグバンドというような強進行を基にしたごりっごりの一時転調, Aメロはおとなしめの展開, Bメロで動きを見せ, サビ前の半音階上行でぶち上げ, サビではポップスでお馴染みの進行で親しみやすく, またインストで捻って… という感じですかね. 

冒頭から順次見ていきましょうか. テンションについては基本省略しながら先ほど紹介したChordWikiに準拠して表記していきます. ()内に曲の流れの中での筆者のコメントを併記していきます.
まずはイントロ. FM7/G(はい)→AbM7/Bb(うん?)→FM7/G(戻ったね)→Eb7(はあ)→AbM7(おう2-5かな)→DbM7(そうだね2-5だね). この後DbM7は裏コード的に次のC7に解決します. 2個目のコードでいきなり一時転調するのはいかにもジャズっぽいですね. 何事もなかったかのように戻るのもありがち. その後の2-5を駆使した一時転調はいかにもビッグバンドっぽい. ここまではコテコテのジャズソングって感じ. ボーカルが入るとどうなるのか.

Aメロ. C7(はい)→F7(はい)→C7(はい)→C7(おう)→F7(はい)→Em7(半音下行かな)→Eb7(半音下行だ)→Dm7(2-5かな)→G7(2-5だ)→C7(うん)→F7(さっきと一緒かな)→C7(さっきと一緒だね)→A7(動いた!)→Dm7(2-5かな)→G7(2-5だね)→C(2-5でした)→C7(Fに行くんだろうな). ポイントはやはりイントロとは打って変わって派手な動きがないということでしょう. 意外性があるのはA7くらいかな? 基本的にジャズお得意の4度上行か2度下行を軸にしているという様子です. まあAメロからぶっ飛んだことはしないよな. 最後のC7は予想どおりFにつながります.

Bメロ. F(はい)→F/G(はいはい)→Em7-5(4536の変形かな)→A7(そうっぽい)→Dm7(そう来るよね)→Bb6(そう来たか)→G7(うん)→Am7(おう)→A#dim7(いえあ)→G/B(はい!)→G6(いえす)→Ab6(いえす)→A6(いえす)→Bb6(いえす!)と来てサビに突入するわけですが, ま〜あ転調が巧みですよね. アレいつの間にって思うもん. サビ前1回目はG7→Am7→A#dim7→G/Bでソラシ(Cメジャー)にラのシャープが挟まっているのに対して, 2回目はG6→Ab6→A6→Bb6でソラbシb(Ebメジャー)にラのナチュラルが混ざっているという状態になっています. 半音のわずかな違いで一瞬にして自然に転調しているこの素晴らしさ. この巧みな転調を支えているのは途中に出てきたEm7-5とBb6ですかね. フラット系の音を混ぜていくことで転調への違和感を少なくすることに成功しています.

サビ. Fm7(うん)→Bb7(2536かな)→EbM7(2-5にこだわるのね)→C7sus4(メジャーだね)→C7(うん)→Fm7(繰り返しかな)→Bb7(繰り返しだね)→Gm7-5(変えてくるんかい)→C7(こっちは2536か)→Caug(ふーん)→Fm7(まあ繰り返すよね)→Bb7
→EbM7→C7sus4→C7→Fm7→Bb7→Eb7(ク)→Daug(リ)→Db7(シ)→C7(ェ)→
Fm7(以下繰り返し)→Bb7→EbM7→C7sus4→C7→Fm7→Bb7→Gm7-5
→C7→Caug→Fm7→Bb7→EbM7→C7sus4→C7→Fm7→Bb7→Gm(まあ2536だろうな)→C7(でした)→Fm7(サビの終わりなので間違いなく251)→Bb7(ほら)
→GbM7(おあ!?)→CbM7(こっちで2-5するんかい)→E(Fb)M7(変態じゃん)という様相を呈しています. サビでキャッチーさを出すためにポップスの常套手段である2536を都度変形を施しながら繰り返していますね. イントロのジャズっぷりとの対比が映えます. サビはコード進行よりもメロディで勝負しているところがありますね. もちろん優勝している. 最後のEM7は裏コード的に間奏のEb7につながります. そして歌唱パートが終わった途端本性を現すかのように借用していく〜.

間奏. Eb7という一つのコードの上にコーラスの堆積を繰り返すという洋楽あるあるのやつ. ここのベースラインはドンキーコング25mステージのbgmを元にしているらしい. ミッソシドシレードシファソミのファのシャープがすこすこのすこ. 2番への繋ぎはDm7→FM7/Gでここも裏コード的と見ることができるか. やはりクッッソ自然な転調で素晴らしい.

以降はアレンジが違うだけでコードは同じなので要所だけコメントします. いきなり飛んでラスサビ転調を見てみますと2サビ終わりからFm7→Bb6→Ebadd9(綺麗な251)→Fm7/Bb(はい)→F#m7/B(はあ)というようにコードだけ見ると極めてふっつ〜に転調しています. ポップスでよくある同じコードを半音上げるだけの転調. 違うのはトランペットで, 2番への繋ぎはミレミレミレソだったのがここではソファソファソファシになっていて, これがまた巧みなんですね〜. 元のフレーズ(Cメジャー)の3度上のハモリパートです! みたいな顔しといて, 転調前の構成音のソファと転調後の構成音のシをしっかり鳴らしていきます. いや〜お見事. スラッシュコードになっているのも地味にデカい. サビ頭と同じコードを使って転調することになっているのですがベースが違うので同じコードが連続しているように聴こえない.

ラスサビが終わった後何を考えているのか最初の調(Cメジャー)に戻るんですよね. 結構珍しい半音4つ分の転調. しかもそっからまたやりたい放題. 見ていきましょう. F#m7(はい)→B6(はいはい当然次はEに解決だよなあ!?)→Dm7(あ!!??)→G7(はあ)→Dm7(繰り返すのか)→G7(繰り返した)→Ebm7(うわ)→Ab7(2-5の連鎖を半音上げるやつね)→Ebm7(はい)→Ab7(じゃあ次はEm7かな)→EM7(メジャーかい!)→AM7(2-5だな)→DM7(2-5だね)→DbM7(決まった!!!)という有様です. このラスサビからの転調は(なぜ転調したのかはともかくとして)わりかし自然になっているのですが, その理由としては1番の後の間奏が終わってCメジャーに戻る時と同じくミの音がフィーチャーされているからなんじゃないかな〜と考えました. 一回聴いた流れは似た形で繰り返すと多少強引でも何とかなるというのはさまざまな曲で証明されているので(要出典). しかしせっかくCメジャーへの転調を果たしたのにもかかわらずすぐに調があっちこっち行ってますね. このバランス感覚がたまらない. 2-5と半音上下を駆使して最後はジャジーに締めているという感じですね. この辺はサイドステッピングという用語で説明できるかもしれない(詳しくはSoundQuestの該当ページを参照). それにしてもエレキギターのソロすこすこ.

こうして通して見てみるとやはり各パートの役割というものがはっきりあって, それに合わせたコード進行をつけているな〜という印象があります. プロい〜!

メロディについて気づいたことも列挙していきます.
作曲者本人も言っているのですが, 親しみやすさを持たせるために繰り返しを多くして覚えやすくするというポップスの強力な手法がとられていますね. ダメ押しで洋楽でありがちなコーラスによるリフレインも追加している. しかもただ闇雲に繰り返すのではなく3回目で繰り返しを破るというよく知られたテクニックも採用されています(Aメロのソラド/ソラド/ソラドラドラ…, Bメロのラファソ/ラファソ/ラド…, サビのシラソラシー/シラソラシー/シラソラシラソファ… など).
音域に関してもABサビと進んでいくにつれてだんだん上がっていくという古典的な構成がなされています. サビの最も盛り上がる部分のシドレミレドやシファレミドで最高音を突破するという粋な計らいもあります. さらに合わせてCのメジャーみをトランペットのsus4を使って押し出し, 2536の6をメジャーにしていわゆるエモを表出する常套手段をうまく利用しています. なぜエモいのかについてはSoundQuestを参照されたし.
ここまでを踏まえると, メロディに関してはポップさを非常に意識していることがわかります. ただその中でも, 繰り返すにしても何回も同じことはやらない(Aメロのソラド/ソラド/ソラドラドラミレドとソラド/ソラド/ドレミドミドララミやサビのシラソラシ/シラソラシ/シラソラシラソファソとシラソラシ/ソラシドレミレドなど)上品さやブルーノートをメロディに混ぜていくことでフラット系への転調の自然さを実現するなど細かな工夫がいっぱいです.

アレンジも最&高ですよね. ここは村田さんの技も大きいかなと思います. コードのところで2番はアレンジが違うだけだからとか言いましたがそのアレンジが違うっていうのがえらいんですよね. 聴く人を飽きさせないサービス精神. 話は逸れますが, 人生は夢だらけという椎名林檎の傑作のアレンジも村田さんがやられております. Jump Up, Super Star! 好きな人には是非聴いて欲しいですね(いうてめちゃくちゃ有名な曲ではあるけども).

あとめちゃくちゃ大事なことなのであえて書きますが歌詞いいよね. 歌詞の何が良いかということについて書き出したら記事もう一個分必要になるので音楽との絡みについてのみにしますが, サビで曲中最もキラーなフレーズ"I'll be your 1-UP Girl"でトニックEbへのコッテコテな2-5-1解決をかましていて本当に流石やなっていう感じですよね. Bメロのジャンプとコインの効果音の遊び心とかも素敵. 他にも書いておきたいことがあったんですけど(サビ終わりのohのリエゾンとsoの話), サイトによって歌詞の表記にブレがあって混乱しているのでやめておきます. 

余談にはなりますが, ゲーム音楽だけあってフェスティバルVer. や8bitVer. オルゴールVer. などバリエーションが豊かです. 全部いいぞ. サントラ買おう. 8bitVer. の方が圧倒的に耳コピしやすいので当初はそちらを元にしようと思っていたのですが, ベースラインを聴いている限りどうも単純に本家から音を4パート分抜き出している訳ではないようです. 確認できた限りでは"It's freedom like you never knew"あたりと"great wide wacky world"が違うかな. 芸が細かい. サントラ買おう.

ジャズっけを要所要所に滲ませることでニュードンク・シティみを確保しつつ, 突き抜けた明るさでフェスの雰囲気も盛り込み, ポップスの手法と洋楽っぽさでマリオのゲームの主題歌としてふさわしいサウンドを纏った, 素晴らしい曲についての記事でした. 分析していて楽しかったな. 他にこの曲について何かお気づきになられた博識なニキネキがいらっしゃりましたら何らかの手段で共有お願いします! 俺はゲーム音楽の楽曲分析に飢えている! 特にこのゲームに関してだとスチームガーデンとシュワシュワーナのBGMが好きです. よろしこ.

最後になりましたが, スーパーマリオオデッセイのサウンドスタッフの方々をはじめ, 開発に携わったすべての方に感謝の気持ちを捧げます. まあまだクリアしてないんだけどなぶへへ. 楽しいゲームなので未プレイの方はネタバレに注意してやっていこうな.

更新履歴
2022/11/24 投稿
2023/7/23 読みにくかったので文を修正

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?