スクリュー固定とセメント固定の比較

審美性

どちらも良い。スクリュー固定に関して議論されることの1つは、上部構造の唇側にスクリューホールが露出してしまうかもしれないことである。解剖学的制約によりインプラントを理想的な角度で埋入することが難しい場合は、角度付きあるいはカスタムアバットメントを使用することによりスクリューホールが唇側に露出しないようにする。

操作性

セメント固定の方が、特に開口量の制限がある場合臼歯部にアクセスしやすい。スクリュー固定だと臼歯部にアクセスするのが難しいのに加えて、スクリューやスクリュードライバーを誤飲・誤嚥させるリスクがある。

咬合

理想的な咬合接触は、スクリューホールの存在しないセメント固定の補綴物で与えられる。スクリューホールが前方や側方運動時に干渉する場合、アンテリアガイダンスの付与は妥協される。

維持

セメント固定の補綴物の維持力に影響するファクターは、アバットメントのテーパー、表面積、高さ、表面の荒さ、使用セメントのタイプなどである。
対合歯とのクリアランスが最低でも5mmあればセメント固定でも予知性がある。4mmしかない場合はスクリュー固定が採用される。
セメントは合着用か仮着用が使用されるが、仮着用セメントを使用する目的は、補綴物が脱離しかけたり、アバットメントスクリューの緩みが起こったりした時に術者により除去することができるため。
スクリュー固定はトルクレンチで締結した後5分後と、できたら数週間後にもう一度トルクをかけるのが推奨される。

維持力低下の発生

スクリュー固定ではスクリューの緩みが問題になる。だがスクリューの緩みの発生は、インプラントのコンポーネントの破折などのもっと重大な合併症が発生する前にその補綴物の咬合接触を評価する機会となる。

術者可撤性

スクリュー固定の大きな利点は補綴物やフィクスチャーを傷つけることなく補綴物を撤去することができることである。
カンチレバーを有する補綴物やフルアーチの補綴物など通常よりもメンテナンスが必要な補綴物に関してはスクリュー固定にするのがベストである。
セメント固定では将来撤去する必要がある時のために、仮着用セメントが最終セメントとして使用される。

補綴物のフィット

補綴物のフィットは作製プロセスでの正確性に依存する。スクリュー固定・セメント固定でフィットの違いが生じるわけではない。
セメント固定はスクリュー固定よりもパッシブフィットを得やすいと考えられてきたが、セメント固定は常にセメントの溶解や歯肉の炎症を引き起こすなどのリスクがある。

インプラントの位置の制限

スクリュー固定は予知性のある審美性を達成するためには正確にインプラントを埋入する必要がある。セメント固定はインプラント埋入位置に関してはそれほど厳密でなくて良い。埋入位置が理想的でない場合はセメント固定で補綴するべきである。

歯周組織の健康への影響

セメント固定では特に補綴物のマージンが歯肉縁下3mm以上の時に余剰セメントを除去することが困難なため歯肉の炎症を引き起こすことが報告されている。特に前歯部では適切なエマージェンスプロファイルを得るために歯肉縁下3〜4mmの深さでインプラント埋入が勧められている。
余剰セメントによるインプラント周囲炎を予防するためには、スクリュー固定で補綴するか、セメント固定ならカスタムアバットメントを使用して補綴する。
余剰セメントを少なくする工夫は、セメントをクラウン内面の半分の高さまでしか入れない方法や、クラウンの内面にセメントを盛った後、模型に一度はめて口腔外で余剰セメントを減らす方法がある。
スクリュー固定はセメントがないので歯周組織に悪影響はないが、もしスクリューの緩みが起こった場合、補綴物とアバットメントやインプラントとアバットメントの間に肉芽組織が集積し、フィステルを作ったり、プラークの堆積やスクリューの破折を起こす。
それゆえにフルアーチの補綴物のケースでは5年ごとにスクリューを再締結することが勧められる。

プロビジョナル

スクリュー固定のプロビはセメント固定よりも好まれる。なぜならインプラント周囲粘膜を広げて適切なエマージェンスプロファイルを与えることができ、カントゥアを模型上で再現して技工士と共有できる。
セメント固定のプロビの主な欠点は、余剰セメントの除去と止血を同時にすることが困難(出血のせいで明確な視野が得られない)。余剰セメントが歯肉の炎症を引き起こす。

即時負荷

即時負荷のケースではスクリュー固定が良い。余剰セメントのせいでインプラント周囲組織の治癒やインプラントのオッセオインテグレーションを妨げることがないから。
加えて多数歯のケースではスクリューで固定することで一番厳密な固定が出来るのでインプラントの初期固定を強化する。

印象採得

スクリュー固定は軟組織のカントゥアをマスター模型で再現することができる。よって最終補綴物は軟組織を侵害することなく簡単にシートさせることができる。

ポーセレン破折

補綴物のポーセレン破折はスクリュー固定の方がよく見られる。スクリューホール付近ではポーセレンの厚みが薄くなってしまうから。

臨床成績

スクリュー固定の補綴物の方がセメント固定に比べてメンテナンス時期に合併症が起こりやすいことが示されているが、このような合併症の起こる確率は一般的に低く、ほとんどの場合はコントロール出来るものである。

どちらか一方の方法が優れているケースについて

スクリュー固定の方が好ましいケース
・フルアーチ補綴
・カンチレバー補綴
・歯肉退縮を引き起こすリスクが高い患者
・クリアランスが少なく、セメント固定では維持が難しい場合(4mmはスクリュー固定しかできない)。

セメント固定の方が好ましいケース
・直径が狭いクラウンでスクリューホールが咬合面の多くの面積を占め、審美性が悪くなったり咬合接触が適切に与えられない場合
・埋入位置や角度が理想的でないインプラントを補綴する場合


まとめ

スクリュー固定の利点

・アバットメントの高さが低くても維持出来る。
・補綴物やインプラントを傷つけることなく補綴物を撤去出来る。
・余剰セメントがない
・インプラント周囲粘膜を広げて適切なエマージェンスプロファイルを与えることができ、カントゥアを模型上で再現して技工士と共有できる。

スクリュー固定の欠点

・開口量の制限がある場合臼歯にアクセスしにくく、スクリューやドライバーを誤嚥、誤飲させるリスクがある。
・スクリューホールの存在により理想的な咬合接触を与えられない。
・スクリューの緩みが発生するリスクがある。


セメント固定の利点

・開口量の制限がある場合に臼歯にアクセスしやすい。
・スクリューホールがないので理想的な咬合接触を与えられる。
・解剖学的に制約があってインプラントの角度が理想的でない場合でも審美的に補綴できる。


セメント固定の欠点

・アバットメントの高さが低い場合維持が出来ない。
・合着用セメントが使用されている場合は補綴物の撤去が難しい。
・余剰セメントが歯肉炎やインプラント周囲炎の原因になる。


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