逃げ水を追いかけ走る夏期講習

人は締切がないと動けない生き物だ、というのを、身をもって理解している。

最近、JMOOCという、無料のオンライン学習サービスをやっている。各プラットフォームにアカウントを作り――Google連携で済むので楽だった――、興味ある講座を端から登録し、講座名の頭に日付を書いて、Scrapboxに突っ込んでおく。

こんな感じで。

そして、「やっべこれ締切今日じゃん」となってから、バタバタと講座ページを開き、動画を倍速で再生し、ゴリゴリとノートを取り、その勢いのままに確認テストを熟し、正答と滑り込み成功に安堵し、ページを閉じる。……ということをしている。

もちろんこんなスタンスだと、確認テストではなくレポート提出が必要だったり、倍速再生しても総再生時間からして締切に間に合わなかったり、そもそも講座の対象者ではないのでレポートを書くのに難儀したりして、成績を修めるのが無理そうなことがある。

そんな場合は、潔く諦め、動画だけ楽しむ。もういっそノートも取らない。もともと興味本位、見聞を広めようとあれこれ受けているだけだし。修了証でもって何かをしたいわけでないし。タダだし。

そんな風にして、締切との追いかけっこをしていると、中学の夏休み、自転車で通った塾の夏期講習を思い出す。途中に長い裏道があり、カンカン照りの下を漕いでいくと、必ず行く手に逃げ水が現れた。

当然、光学現象だから追いつけるものではない、と知っている。しかし、追いかけよう、と目標に定め、追いかけたい、という欲求で動くと、ペダルを踏む脚が軽くなるのだ。

夏期講習は嫌いではなかった。涼しい教室、明快な教材、好きな勉強、適切な難易度。だが、運動が嫌いだった。特に、真夏日の真っ昼間にギアなしのチャリを十数分漕ぐといった類の運動は。

タイトルは、そんな当時に詠んだ句だ。たびたび思い出しては、「通う」とか「漕ぐ」とか入れたいなあ、でも「か」が重なって煩いなあ、となって、ついぞ青さを拭えないままこうして世に出すに至る。まあ、実際中学生なんて青の只中だからいいか。

で、これらの講座は、まあぶっちゃけると、二次創作に役立てようと思って取ったものだ。「推しを幸せにしたい」という一心で書き始めたが、元来の凝り性も手伝い、設定を緻密に組み上げていったら、自分の内に建材が足りなかった。ので、摂取している。

あとは、一次データの管理のため。FEの資格勉強をしているのも、結局は自分がDB構築やら統計やらをできるようになる必要が生じてしまったからだ。流石に丸暗記からの記憶を頼りに検索じゃおっつかなくなってきた。新しい情報を手打ちで入力するのも億劫。情報が増えるたびに計算をやり直すのも面倒。うんうん唸ってどうにかそれっぽい予測を立てるのも馬鹿らしい。

ならば、その通りのことができる教材があって、習得度を測れる制度があって、お墨付きが貰えて、その知識もひょっとしたら生業へ化せて、といいことづくめの街道を通らぬ手はない。

まあ、ちょっとお金が掛かるが。でもハードカバー2冊分くらいだし。足りない建材は書籍でも買い込んで、結構な額を突っ込んでいるし。好奇心に懐を殺されている。無職なのに。

でもまあ、この好奇は私の命そのものだ。絶やせば絶える。殺せば死ぬ。だから奔放に生かしておくのがよい。……えっと、何の話だっけ。

ああそうだ、締切の話だった。尻叩きや鼻先の人参の話。
で、こうして好奇に生かされている私は、好奇に殺されないために、好奇を養わなければならない。具体的には、書籍代を稼がねばならない。……いや、書籍代の外にも生活費までキッチリ稼いで早よ自立しなさいって話になってしまうからちょっとやめようか。IT系の職に就けたらいいね、くらいで纏めておこう。

でだ、この二次創作というやつには、締切がない。
やっているのは「刀剣乱舞-ONLINE-」というコンテンツのそれだが、これはサービス中のオンラインゲームで、つまりは原作が完結していない。待てばいくらでも情報が出てくるし、遅れればどんどん解釈違いを起こす。そういう状況だ。

そして上にも書いたが、凝り性に何かを作らせるとどうなるかなど、火を見るより明らかだ。どこまでもどこまでも作り込もうとする。そうしている間に新しい情報が出てくる。反映させる。齟齬をなくす。触っている内に新しく閃く。盛り込む。全体を整える。推敲する。そうしている間に新しい情報が――という、無限ループに入る。

ことに、今書いているやつは、まずあるシーンが浮かび、次に話の始まりと終わりが浮かんできたので、話は既に終わってしまっているのだ。だから、その間を描けばいいだけなんだが、この物語に十全なビリーバビリティを付与するには、足りないものが多すぎる。

設定の煮詰め、それの提示、そのための描写力、裏付ける知識。自分が納得できるクオリティに持っていこうとすると、さらに、始まりと終わりの間に書きたいこと全部書こうとすると、何やらとんでもない長編になる気配しかしない。

この創作もScrapboxに独立で立てたプロジェクトで行っているが、現在、ページが500弱ある。最小単位が1台詞1ページ、最大単位が物語そのもの1ページ。その間に、シーンやらプロットやらボツブランチやら設定やら考察やら資料やら、といった具合で、粒度がてんでばらばらではあるのだが、500てアンタ。

幸いなことに、「刀剣乱舞」というIPは、そう容易く掻き消えるような種火ではない状況にある、と思っている。そして私が書いているのはドマイナーなジャンルにドマイナーな解釈が重なり、完全自給自足状態である。そも二次創作というのはそういうものだが。
なので、私はこれにどれだけ時間を費やしてもよい。
つまり、誰も咎めてくれない。

だから、イベントがあるのだと、作る側になって理解した。
そう、締切に追われないと、終われないのだと。

しかしこの物語はもう終わってしまっているので、日々降ってくる素晴らしい情景や台詞や解釈を物語に収めるには、完成を待ち続けるしかないのだ。

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