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正体不明の天才が生み出す価値

アートの世界で20年以上未だ正体不明のまま活動し続ける異色の天才アーティストがいる。彼は、世界中のストリートをキャンバスに見立て、これまで反資本主義や反グローバリズム、反人種差別などメッセージ性の強い社会風刺アートを数々残してきた。ストリートアートを語る際には「公共物を汚す違法行為だ」との批判を避けることはできないが、今や彼の作品を落書きと揶揄する人は誰もいないだろう。彼の作品は突如として現れる。つい最近も、彼の作品らしき「アンブレラ・ラット」の絵が東京のとある駅近くの防潮扉で見つかり話題を呼んだ。そう、彼の名はバンクシー。

アートの価値は需要と供給で決まる。それは世の中の市場原理と何ら変わりはない。しかし、需要が急増するきっかけはあまりに単純である。その作品がどのギャラリーで展示されたのか、また、その作品を誰が購入したのかによって価格は大きく変動する。つまり、アートは権威付けが何よりものを言う世界なのだ。それによって、アーティスト自身の展示会では数万円で売られた作品が、二次流通市場では数百倍、時には数千倍で取引されることも珍しくない。アートが金持ちの娯楽と言われるのはその所以からだろう。まるで金融商品のように富裕層の間でアートが高額売買され、アーティストには利益が還元されない構造問題を訴えてか、バンクシーがオークションで自身の作品が落札されると同時にシュレッダーで裁断される仕掛けを作ったというのは有名な話である。それにより価格が一層高騰したというのは皮肉な話だが。

バンクシーはストリートアート×社会風刺によって世界が認める価値を築き上げてきたが、それを担保しているのは、やはり彼が活動開始当初から正体不明を貫き、今もその立場を維持していることである。おそらく、彼の正体が明らかになった時には、世間からの注目が中長期的に薄れ、「神出鬼没で謎に包まれた天才グラフィティアーティスト」というバンクシ―のブランド価値は大きく毀損するだろう。バンクシーは作品の意図をほのめかすことはあっても、自ら具体的な発信をすることはない。正体のみならず作品が伝えたいことすらも見る側の憶測の域を超えないのである。そんな彼の偶像を多くの人が崇拝し、そこに確かな価値が生まれている。

忘れてはならない正体不明の天才がもう一人いた。ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトである。ジェネシスブロックの誕生から早10年。その名前から日本人ではないかとの声や、自ら私がサトシ・ナカモトだと名乗る声もあったが、未だその正体は明かされぬままだ。創始者の素性がわからず、分散的に管理・開発されているビットコイン。世界中の人がそのミステリアスな“何か”に今も踊らされている訳だが、それが周知のものとなった時、おそらくビットコインの価値は同様に下落の一途を辿るだろう。決済手段・価値の保存・分散性など様々語られるが、その価値の根源は創始者が秘める謎にこそ存在する。

#バンクシー #サトシナカモト #ビットコイン

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