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中島桃果子著『宵巴里』

『宵巴里』は、町酒場の名前。フィクションだが、実在するお店がモチーフで(作者の桃果子さんが女主人として経営されているイーディというお店)、その店に関わっている人々の人間模様を、クリアなファインダーで映し出している。

宵巴里に出入りする登場人物たちが各章のストーリーテラーで、それぞれの一人称で語られる物語なのだが、どの登場人物たちも、みんな碧さん(宵巴里の女主人)の魅力にどっぷりはまりこんでいく。(私も含めて。I’m so into Midori!)

読み終わってから気がつくことがいくつかあるのだが、ネタバレしないように、表紙にまつわることを書くことにする。
私が本を手にとってまず気になったのは、表紙にたたずむ女性の目だった。(縦に並んでいる二つの目。)
そして、貝殻のようにきらきらしている、明るく美しい色彩の背景。
この女性は桃果子さんの肖像だということを後になって知るのであるが、読了して分かるのは、その美しい色彩は女主人が放つオーラであること。彼女自身が、宵の中に灯る、あたたかな光そのものだ。
そして、宵巴里という箱に、名もなき客として深夜ふらりと入店し、そこで繰り広げられるドラマを見ている自分がいることにふと気がつく。これは、実に不思議な感覚だ。
作者が箱を上から見下ろすように見ていて、全体を私達に見せているからなのかもしれない。
「俯瞰」して見る、ということばがあるが、その類義語に「鳥瞰」ということばがある。
どちらかというと、後者の表現が相応しい。
女主人は、鳥のように高い位置から見下ろし、店を守っている。そして、登場人物に憑依して、自分自身についても冷静に見つめようとしている。全ては、愛する人達が集う、大切な場所を守るために。
(人よりもひとつ高い位置にある)あのもうひとつの目には、そんな意思みたいなものを感じるのである。

うまくいかないことがあると、私達はそれを誰かのせいだったり、時代のせいにしたくなる。
でも、それは本当の不運なのではなく、心の有り様によって変わっていく。どんな形でも、継続していくためには物凄い熱量が必要で、私達からそれを奪う権利は誰にもない。そう強く思わせてくれる。
だってこの作品は、桃果子さんの生き様そのものだから。

「風の時代」にこの本と出会えて、私は本当に幸せだ。
書くことへのゆるぎない信念と、新時代への挑戦に、心から拍手を。

ブラボー!ブラボー!桃果子さん!! 


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