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「ガラスのハート」 ミャマ

(以下は2021年11月15日の金原のブログからの転載です)

 創作表現論IIの秀作をもうひとつ。読みながら、バラードの『結晶世界』を思い出したりして。イメージも面白いけど、それ以上に言語感覚がすごい。

「ガラスのハート」 ミャマ

 私の身体がガラスに変化し始めたのは、十月の最終日、ハロウィンのことだった。なんだか外がうるさいなあって思って。やばあって思って窓から外見たら、超おかしなかっこした人たちがいっぱいいて、がちやばだった。
 最初は左足の小指だった。その爪が透き通る薄いガラスになり、次に小指全体が透明になり、次の日には左の脚全体がガラスになっていた。いやまじでなんで? やば。いやがち死にたいってかんじ。でもきれーじゃんね!
 なぜだか病院に行く気は起きなかった。幻覚だと思ったのだ。だってこの薬、あたまふわふわするんだもん。夢だって思ってもしかたなくない?
 十一月十日、私の身体はすでに左脚、左腕の肘から下、右の頬がガラスに侵食されていた。ガラスになった部位は動かず、超大変。そんな中であたしの部屋にやってきたのは、私の数少ない友人であるショーちゃんじゃんやばい! やっぱお顔が大正義! 私の心臓はまだガラスにはなっていないらしく、高鳴っていた。
 将太朗は私の身体を見て腰を抜かした。その時に私はこの事態を幻覚ではないと認識したのだ。
「それ、何」
 ショーちゃんは震える声であたしに尋ねた。私はよくわかんないってゆった。だってわかんないもん。あは。
「病院行った方がいいって」
 彼が確かめるように私の左手に触る。そのとたん、ぱきぱきと音を立てて、ガラスは肩のほうまで侵食した。あー、これ、あはは! ねえあたし、完全に理解したけど?
 将太朗は怯えた目をしていた。
 あー、これ、薬効かなくなったんだな。だからその防衛反応でしょ、心の。
 震えながら将太朗はあたしにゆった。
「俺がお前を守るから。絶対」
 その言葉がうれしくって、あたしの下半身はぜぇんぶガラスになっちゃった。信じていいのかな、その言葉。
 そもそもなんで将太朗はここに来たんだっけ? 私はショーちゃんに尋ねる。
「だって、今日、デートだろ? 初めての……」
 そうだっけ。付き合ってたんだっけ? かもしんない。ふわふわしてるから、曖昧なのだ。あ、もしかしてここまで幻覚? そうだったらお笑いだね。右の眼球がガラスになるのを感じた。やば。右目冷たい。うける。
 ショーちゃんは女遊び激しいし、まあ、あたしが彼女になってても不思議じゃないのかも。
「本当に大丈夫?」
 私は将太朗に薬を取ってくれるように頼んだ。
「あんまり薬に頼り過ぎないほうがいいよ」
 うるさいって思った。あんたのせいだよってゆいたいんだけど。まあ私があんたのせいだよって言える立場にいるかどうかは不明だが。水いらないからそのまま直に薬をごくんした。
 またぱきぱきと身体から音がした。もうお腹の上あたりまでガラスに変わっていた。
「俺は本当にお前を心配してるし、お前のために言ってるんだよ」
 その言葉が聞こえるころには、あたしの身体はぜぇんぶガラスになってて、がちやばいなあって思った。心臓がガラスになった。もう胸は高鳴らない。
 将太朗はガラスに変わってしまった私の身体を抱きしめた。
 その時あたしは、将太朗が本気で私を愛していたことに気づいたのだ。
 あーあ!