鎮魂の喪章と希望の記念碑

以下は大震災の時に主催する塾の塾生に送った言葉です。  

2011年3月14日 鏑木 稔
今日本に起こっている現実 
今日本に起こっている現実、この現実を素直に見つめて欲しい。そして考え、その気持ちに真摯に行動してくださることを願います。世界の人々が勇気と希望のメッセージを送り続けてくれることに、被災地の人たちが困難な状況に歯を食い縛って耐えている現実に、『自分でも何か行動を取ってみよう』誰もがきっとそう思っているはずです。

『行動してみよう』と言われても何をして良いか解らないと思います。でも何もしないとこのまま時の過ぎ行くままに、また忘れ去られてしまって、昔の日本と変わらなくなってしまいそうです。今回日本を襲った不幸の甚大さを考えると、それではいけないと思いませんか!?
だからどんな些細な事でも良いので自分を変えてみませんか!?少しだけ積極的に行動をしてみるとか、それを続けてみるとか、そんな僅かな社会貢献と変革の歯車になろうではありませんか!この震災への誓い、そして絶対日本を復活させる、という強い思いを抱いて!
でも一人では何もできません。しかし僅かな変革が1億2700万個集まれば、必ず変革の初期微動が起こるはずです。

自民党と民主党の政局で中々国民レベルまで政策が行き届かず、結局最終的に不幸を蒙るのは私たち国民なのに、そんな体たらくな政治情勢にも無反応で無頓着な私達国民と、商業主義に陥ったメディア。目に見えない不幸が少しずつ少しずつ幸せを蝕んでいるのに、目には見えないから、自分自身には差し迫った危機ではないからと言って自ら進んで変えようとせず、政治が変わらないのは国民が動かないからであり、国民が動かないのは飽満社会に慣れたが故の鈍感さであり無責任さや無関心さの蔓延!その負の循環が今回の大震災を生み出したと言っても過言では無いような気がするのは私だけでしょうか?もっと昔のように勤勉で慎ましく、武士道精神に則り様々な状況に備えて普段から心技体を鍛え、貪欲に学んでいたとしたら、今回の二次災害は避けられたのではないでしょうか?

こんな事をずっと許し続けていても良いのでしょうか?

重犯罪の多発、家庭の崩壊、ニートや引きこもりの増加、無気力、無関心、無目的、学級崩壊、社会人のうつ病、老人の孤独死、ネグレクト、数々の社会問題の放置、日本はまさに待ったなしの状態にあるのです。

今回の窮状迫る状況に、被災地では無い地域の人達の買い占めにより、生活必需品が被災地に届かないという許し難い現象が起こりました。海外メディアに賞賛された日本人の姿は実はそこにはなかったのです。米が無くなると言われれば米を買い漁り、ティッシュが無くなると言われればティッシュを探し求め、パンが無くなると言われればパンを買い求める。パンが無ければ米でもいいではありませんか。なければないなりの生活をすればいいだけの話ですが、まるで駄々っ子の様にあれが欲しいこれが欲しい、疲れた、眠い、お腹がすいた!足りている事を慈しむよりも無い事に嘆き翻弄される日本人。
今変わらなかったら多分日本は変わらない。このままGNPでも中国に抜かれインドに抜かれブラジルに抜かれ、経済競争力はおろか、今回世界に賞賛と尊敬の喝采を浴びた、こんな状態でも秩序正しく清廉さを保って行動できた国民性がどんどん失われて行く事になるのです。
命を尊重し、人とのつながりを尊び、慎ましやかに生活をし、勤勉さで世界に認められてきた民度がどんどん低下して行き、日本固有の伝統文化やその精神を失ってしまったとしたら。経済的にも文化的にも地に落ちたとしたら、次の世代の人達に申し訳ないと思いませんか?そんな日本を次の世代の人達に残す事が果たして出来るでしょうか!?

民度は一人ではどうにもなりません。一日や一年ではどうにもなりません。誇りある国民性は一朝一夕には醸造されないのです。世界の国々から賞賛され応援のメッセージを送られた国民性は簡単には創造されないのです。
だからこそ今ここで待ったをかけないといけないのです。持ち堪えないといけないのです。覚醒しないといけないのです。鈍感さや無責任さや無関心さ、自己中心的思考から、今脱却しないといけないのです。今がその時なのです。この大震災をきっかけに、日本人の誇り高き民度を取り戻す絶好の機会なのです。
そうでもしなければ被災者の方々に申し訳が立たないと思いませんか!?彼らは再建に精一杯なのです。今自由の利く私たちが立ち上がらないといけないのです。
一人の変化は少しでも、1億2700万人の変化が集まれば、大きくこの国を変えられるのです。
だから私は提案します。日本を変える一つの歯車にならんことを!今自分が出来るどんな些細な事でも構わないので、今までの無関心さ無責任さを反省し、願いを込めてほんの少しの変化を起こそうではありませんか!今回被災した人々への鎮魂の喪章として、これからの希望の記念碑として自分自身の心のど真ん中に決意の楔を打ち込もうではありませんか!
そしてもう一度、誇り高き日本人としての魂を取り戻すのです。
Epilogue
子供達よ、君達はもっと真摯に生命の不思議と恩恵に畏敬の念を抱き、もっと真摯に自分が今何をなすべきかを考えもっと真摯に行動を取らなければなりません。明日は何が起こるか解らないし、何か起きた時では遅い。お金は持っていても今回の様に品物が無ければ買う事は出来ません。お金は家の金庫に眠らせておいても火事で燃えてしまえば終わりです。家も然り。車も然り。例え銀行に貯金をしておいたとしても、金融危機が起こり物価が急激に変動してしまえば瞬時にその価値は失われます。目に見える物は確かに信じやすく頼りやすい。でも逆に一瞬にして失う危険性も持ち合わせているのです。しかし知恵や経験は、何があろうとも絶対に奪われる事はありません。そしてそれらはすぐにでも生かす事が出来るのです。

だから子供達よ、もっと真摯に学びなさい。何が起ころうとも生きて行けるだけの知恵と経験を身に付けるのです。面倒だ、ウザイと言っていて、貴方はこのような災害が起こったなら、きっと誰かに助けを求め、すがるでしょう。助けなければならないのは年老いた方々と子供達です。貴方達が大人になったなら今度は援助を受ける立場から与える立場にならないといけません。多くの人が困った時、真っ先に立ち上がり、人々を結集し、勇気を与え、乗り越える事が出来る人間になるのです。命から始まり様々なものを与えて頂いたその恵みを今度は社会に返せる人間になるのです。そのために常日頃から備えるのです。知恵と言う武器を身にまとうのです。そして一度事が起これば、勇気と優しさを持って果敢に立ち上がるのです。愛する者のために!そして目に見えない絆で結ばれ、数々の恩恵を与えてくれた人々のために!その日のために偶然にも授かった唯一無二のその命を、日々輝かせ続けるのです!
この文章は2011年3月の東日本大震災の際に私から子供達へ送ったメッセージです。あれから3年が経ちました。当時高校受験を終えた中学3年生が高校を卒業する年となりました。彼らは何を考えこの3年間を過ごし、高校を卒業し未来へ羽ばたこうとしているのでしょうか?
ソチオリンピックで羽生結弦選手が金メダルを取りました。彼は仙台出身で震災後の練習には相当苦労したそうです。競技を辞めようとさえ思ったそうです。でも今回金メダルを取りました。
「日本のフィギュア男子で初めて金メダルを取れてうれしい。同時に、日本人として、日本国民として、最高の舞台でたくさんの応援をいただいた中で、最終的には金メダルという素晴らしい評価をもらったことを誇りに思う。今後も、日本国民の一人して、「五輪金メダリストとして恥ずかしくないように、日本人らしい人間になれるように日々努力したい」
これは記者会見での彼のコメントです。19歳とは思えない決意と覚悟が伝わってきませんか!
長く苦しい受験勉強が終わりました。第一志望に合格できた人、できなかった人、それぞれいると思いますが、これから進学、進級される皆さん、皆さんは進学、進級をする上での覚悟はありますか?中学や高校、大学で何をしたいのか、どんな人間になりたいのか、と言う思いはありますか?
大震災から3年。薄れゆく震災への思いをもう一度胸に抱き、進級、進学の目的をもう一度考えてみては如何でしょうか?