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社会人が予備試験に受かる方法③(短答正答必須知識の意識)

 

1 要領の良い短答対策

 短答対策は、暗記の部分が多くを占めますが、それでも頭を使いながらやったほうが、楽しいですし、記憶にも残りやすいと思います。私は、短答は比較的得意で、(もうだいぶ前になってしまいますが…)予備試験合格年は民法と刑法は各30点でしたが、自分なりに楽しみながら勉強していたことも良かったのかなと感じています。そこで、今回は、おすすめの、短答問題の解き方や勉強方法をご紹介したいと思います。
 以下では、会話問題になりますが、予備試験令和3年刑法第5問を扱います。なお、この問題をケアレスミスでなく間違えた方や正解したとしても3分以上時間がかかってしまった方は、合格のための要領の良い勉強が出来ていない可能性が高いので、特に参考にしてもらえたら嬉しいです。

2 例題:予備試験令和3年刑法第5問

 学生A、B及びCは、次の【事例】における甲の罪責について、後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【事 例】
 甲は、乙を殺せとの幻聴に従い、殺意をもって、乙の腹部を包丁で刺し て死亡させた。甲の精神鑑定を行った精神科医丙は、上記犯行当時、甲が重篤な統合失調症を患っており、これに基づく幻覚妄想に支配された状態にあったと鑑定した。
【会 話】
 学生A.甲の責任能力についてはどのように考えていくべきだろうか。い くら精神科医であっても、統合失調症等の重い精神障害が①(a.生物学的要素・b.心理学的要素)に与えた影響など分からないのではないかな。
 学生B.確かに、精神科医の中でも、A君の見解、つまり不可知論を採用する方もいるようだね。でも、判例はそのように考えていないんだ。判例による心神喪失の定義が、精神の障害により、事物の理非善悪を弁識する能力が欠如し、②(c.又は・d.かつ)、この弁識に従って行動する能力が欠如している場合とされていることからも分かるよね。
 学生C.では、精神障害による影響の程度は、誰がどのようにして判断するのだろうか。特に、専門家である医師が述べている意見については、どう考えるべきなのかな。丙医師の意見に従えば、心神喪失になるのではないかと思うんだけど。
 学生B.判例は、生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれ が心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断が③(e.臨床精神医学の本分・f.非医学 的知見も加味した総合的判断)であることからすれば、専門家たる精神医学者の意見が鑑 定等として証拠となっている場合には、④(g.これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して・h.生物学的要素の判断に関する限り、その意見に従って)認定すべきであると判示しているね。もっとも、一方で判例は、被告人の精神状態が心神喪失・心神耗弱に該当するかは、⑤(i.事実判断・j.法律判断)であって、裁判所の専権事項であり、その前提となる生物学的要素・心理学的要素についても、究極的には裁判所の判断に委ねられるべき問題であると判示しているね。
1.①a ②d ③e ④g ⑤i 
2.①a ②d ③f ④h ⑤j 
3.①b ②c ③e ④g ⑤j 
4.①b ②c ③f ④g ⑤i 
5.①b ②d ③e ④h ⑤i


3 検討

 まず、テーマを把握しますよね、39条の責任能力の問題だ、と。
 なお、本問では、39条の1項と2項の文言内容を直接問われていませんが、1項は心神喪失→責任否定=犯罪不成立、2項は心神耗弱→犯罪成立→刑の「必要的」減軽という体系的知識は、即答できるようにしましょうね。

 では、本題に入ります。①から⑤まで、( )がありますが、これ、どの順番で解きます?①から順に埋めていきましょうか。
 あるいは、中村充先生が紹介されている(H30短答本試験実況分析講義 | 司法試験:勝利のアルゴリズム (ameblo.jp))ように、1から5に掲げられた記号の候補の組合せに着目して①の多数派のbを含む3、4、5に絞り(1及び2を消去)、そしてその中の②の多数派のc及び④の多数派のgを含む3又は4が正解なんじゃないか(5を消去)と当たりを付けた上で、その分かれ目となる⑤を検討しましょうか。

 アプローチは、いろいろあると思いますが、少なくとも本問のように全部の空欄を埋める必要のない問題については、几帳面に上から順に解答していくことはやめるべきです。①を判断できなくても正解できる問題で、①の解答にこだわって時間とエネルギーをロスするのはもったいなさすぎるからです。本問でも、①は、「a.生物学的要素」か「b.心理学的要素」か、あれ?どっちだっけ?となってもおかしくないので、ここを乗り越えないと正解できない、と追い詰められるまでは、誤魔化してすすみたいところとなります。
 他方、候補の組合せの多数派から攻めていく方法は、威力を発揮する場面が多いので、使えるように普段から頭の片隅にいれておくと良いです。出題者側からすれば、例えば、本問で①について、aを1つ、bを4つ候補に挙げてaを正しいものと設定した場合、その判断のみで正解に辿り着かれてしまい、それはおもしろくないでしょうから、受験生に複数回の判断をさせるため、組合せの並び方は本問のようなものになることが多いからです。

 さて、とはいえ、今回は、これらとは異なる観点から、問題を検討したいと思います。
 司法試験の勉強では条文、判例、学説の順に大切だ、ということはよく知られたことと思いますが、このことは、短答の会話問題の解答過程でも当てはまります。本問では、条文知識は問われていませんが、判例知識は問われていますので、問題文中の「判例」というワードに着目してみましょう。そうすると、学生Bの第1発言と第2発言に「判例」という単語が出てきますね。これらは、②から⑤の各判断に関するものですので、①は飛ばします(出題者から、「①は、まあいいから、②から⑤は判断してよ」と求められていると捉えます。)。
 そして、②を見ます。②は心神喪失の定義ですが、ここは、繰り返し出題されていますね。
 そう、絶対に、「c.又は」ですね!!
 法律の勉強では、「又は」か「及び」の区別は非常に重要ですが、出題者が好きなポイントですよね。本問では、普段から、判例を重視し、かつ、過去問をきちんと勉強していた場合、②から検討してこれを即答できますから、30秒以内で正解が3又は4であることが断定できます(1、2、5は消去)。

 続いて、3と4では、④はgで同じですが、③と⑤が異なるので、③と⑤のどちらかで正解を選べれば、答えは決まります。ところが、③はけっこう判断するのがつらい印象です(私ならここで勝負には出られません…)ので、⑤のほうへ、どうか判断できるものでありますようにと祈りながらおそるおそる視線を移します。すると、過去問で出たことのある有名なやつだ!これは絶対に外せない!ということで「j.法律判断」を選ぶことになり、正解である3に辿りつくことになります。

 重要なことは、普段の過去問学習で、②と⑤を判断できる力がついていたかということです。もちろん、②と⑤の判断はできなかったけれど、①と③と④の判断ができたから正解3に辿り付けたという場合もあると思います。でも、条文・判例そして過去問を重視した場合、本問の重点・ポイントは、②と⑤であったということができ、その知識が合格のために最も重要であったと評価できることになります。普段から、条文、判例そして過去問における正答必須知識を確認しながら勉強すると、芯を外さず、メリハリもついてきます。なお、③と④のような知識は簡単に済ませます。是非、頭の体操がてら意識してみて下さいね。空欄補充問題でも、判例知識で解答が出たり、2択まで絞れたりすることがけっこうありますよ。

4 補足とまとめ

 なお、本問で、①は国語力で解答可能ですね。
 学生Bの第2発言の冒頭に「判例は、生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度」とあります。㋐「生物学的要素である精神障害」とあるため、「生物学的要素」=「精神障害」である一方、㋑「これが心理学的要素に与えた影響」の「これ」は「生物学的要素である精神障害」を受けています。ここで、①の前後を見ると、「…精神障害が①(a.生物学的要素・b.心理学的要素)に与えた影響…」とありますが、㋐「生物学的要素」=「精神障害」であるため精神障害は生物学的要素に影響を与える関係になく、他方、㋑は「これ(=精神障害)が心理学的要素に与えた影響」なので、そのままですね。答えは、「b.心理学的要素」。
 ただ、国語力で解答可能とはいっても、時間とエネルギーを使うおそれがあるため、あまり勝負したくない空欄ですね…
 まとめると、①から⑤の知識をすべて同じテンションで暗記しよう、押さえようとするのではなく、正答必須知識から逆算して重要知識をあぶりだし、記憶対象にメリハリをつけることが大切です。

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