情報の精度について

1.情報の精度の重要性

もしネット上の2割とか3割といったかなりの人が炎上に参加した経験があるならば、炎上というものは人間というものにある程度普遍的についてまわる性質である。ゆえに,社会は炎上を抑制しながらもある程度は受け入れ,これとつきあっていくほかはない。しかし,炎上参加者が数%以下といったようにごく一部であるなら,炎上の抑止対策をとることに意味が出てくる。多くの人が行うことと,ごく一握りの人だけが行うことでは、原因も異なれば対策も異なってしかるべきである。炎上問題を考えるとき、炎上を起こす人つまり炎上に参加して書き込みを行う人がどれくらいいるかを知ることは、議論の重要な前提条件である。

『ネット炎上の研究』 第5章 炎上参加者はどれくらいいるのか "5-1 なぜ参加者数を調べるのか" より(太字強調は引用者によるもの)

今回のnoteは情報の精度に関する内容です。
上記の内容は"ネット炎上"に関する書籍からの引用ですが、このことは本質的な話だと思います。影響力(脅威と言い換えても良いかもしれません)は正確に見積もるべきだと思います。評価の段階で過大評価(もしくは過小評価)は避けるべきだと考えます。仮に過大評価してしまえば、その後の対策で他に割けたはずのリソースを割いてしまう危険がありますし、逆に過小評価してしまえば、その後の対策は功を奏さないものになるかもしれません。
(私個人としては、影響力が定量的に算出できるものはすべきだと考えています。とはいうものの、影響力が定量的に算出に関しては、算出方法を考える必要であるため容易ではないと思います。例えば現在ホットなトピックである生成AIについてですが、現状でも影響力の評価はかなり難しいでしょうし、生成AIの性能自体が上がったり、様々なタイプのサービスが生まれたり、生成AIをどのように活用されるかの方向性、さらに言えば国家などによる規制がかけられる可能性辺りまで考慮すると、考えなければならない要素が多すぎるためかなり難しいと考えられます)
今回、ネットの炎上に関する書籍を参考にしたいと思います。『ネット炎上の研究』並びに『ネットは社会を分断しない』では実際にネット炎上に関するアンケートを取り、炎上を見た、あるいは参加した人の割合を算出しており、定量化しており、設問についても開示されています。

調査時点  2014年11月 調査対象者 調査会社(マイボイス社)のインターネットモニター 19,992人 全登録モニターからのランダム抽出

『ネット炎上の研究』 第5章 炎上参加者はどれくらいいるのか "2 アンケート調査での炎上参加者数推定"より

本書でのアンケート調査は複数回行っている。1回目は2017年8月実施の10万人の調査、2回目は2018年2月実施の5万人の調査、3回目は2019年5月実施の2万人の調査である(数字はいずれも概数)。2回目の調査は1回目と同じ対象者に送った追跡調査であり、3回目は補足のための調査である。いずれもウェブモニターベースの調査である。

『ネットは社会を分断しない』 まえがき より

となっています。このように具体的な数値を開示しているかは重要だと感じます。

『ネット炎上の研究』での調査で炎上の参加率を求める試みをしています。同書による調査では現役の炎上参加者は"0.47%"と推定されています。炎上はSNS上では目立つかもしれませんが、実態としては少数の人数であることが分かります。
情報の精度をどこまで求めるかによりますが、SNSで炎上に参加する人間の割合を求めたいのであればパーセンテージを出す程度で十分だと思います。

また、『ネットは社会を分断しない』では、"分極化"(政治的意見が二つに分かれてくる現象を指す学術的な用語)に関する調査を行っていますが、結果としては、書籍の名前通りに『ネットは社会を分断しない』という結論に至っていますが、全てのケースで一様に穏健化が見られたわけではなく、逆にネットメディアを利用し分極化が存在する例が存在しました。

年齢別と男女別、いずれの場合でも有意に穏健化するケースが得られた。では逆にネットメディア利用で有意に過激化し分極化が進むケースは無いのだろうか。サンプルをいくつかのクラスターに区切っての推定を試行錯誤してみたところ、一つだけ有意に過激化し、分極化が進むケースを見出した。  それは、元々分極化がある程度進行していた人たちの場合である。

『ネットは社会を分断しない』 第4章 本当にネットが原因なのか? その2――ネットメディア利用の影響 "一つだけ存在した分極化が進むケース" より

つまり、"ネットを使っているから一様に意見が穏健化する"という訳ではなく、"分極化が進むケースも見られるが、全体で見ると穏健化する"という解釈になると思いました。
(なお、『ネットは社会を分断しない』では"サイバーカスケード"や"エコーチェンバー"に関しても効果の検証が行われています。調査の詳細を知りたい方は、参考書籍に『ネットは社会を分断しない』のリンクを貼っておくので、そちらから購入してみて下さい)

2.情報の精度が低いと…

一方で、SNSを含めたネットを見ているとそのような数字すら出さない、ケースもあります。例えば、「批判集中」、「共感の嵐」などといった語句を使う場合、しっかりとした定量化がされているのか?と考えてしまいます。仮にSNS上において、10以下のアカウントしか関わっていないのに、上記の語句を使い、かつ主語の大きい単語を組み合わせ、「SNSで批判集中」、「SNSで共感の嵐」などと紹介されているケースがあると、私は実体と乖離しているように感じます(『ネット炎上の研究』や『ネットは社会を分断しない』のような炎上に関する調査を行った書籍を読み、炎上に関する知識を有した後だと、タイトルを見ただけで「うーん…」となってしまいます)。記事を書く上で時間がないのかもしれませんが、SNSを含めたネット上で衆目を集めらたいがためにそのような単語を安易に使っているのではないか?とも感じてしまいます。"衆目を集めるタイトルにしないと埋もれてしまう"という考えかもしれませんが、私の意見としては、"そのような衆目を集めるタイトルの記事は現状では飽和していて埋もれてしまうし、主語が大きすぎてタイトルだけで見る意欲がなくなるので総合的にマイナスに働く"だと思います。衆目を集める語句を安易に使いすぎる個人/団体は信頼性に疑問符がついてくると考えます。

「嘘をつく子供」(うそをつくこども)とは、イソップ寓話のひとつ。ペリー・インデックス210番。一般的には"オオカミ少年"の話として知られている。
(中略)
人は嘘をつき続けると、たまに本当のことを言っても信じてもらえなくなる。常日頃から正直に生活することで、必要な時に他人から信頼と助けを得ることが出来るという教訓を示した寓話であると一般には受け取られている。日本ではこの話を由来として、嘘を繰り返す人物を「オオカミ少年」と呼ぶことがある。

また誤報を繰り返すことによって、信頼度の低下を引き起こし、人に信じてもらえなくなることを「オオカミ少年効果」という。例えば、土砂災害が予測される地域で避難勧告を出しても、実際に災害が起こらない「空振り」が発生する可能性がある。空振りを続ければ情報の信頼度が低下し、情報を受け取っても住民が避難しなくなることを「オオカミ少年効果」と呼ぶ。

引用元:嘘をつく子供
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%98%98%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E5%AD%90%E4%BE%9B

引用元では誤報が例に挙がっていますが、表現についても当てはまると思います。SNSを含めたネットで、上記のような普段から些細なことをさも重大なことであるかのようにいったり、断片的にしか見えていない情報だけで安易に決めつけるようなアカウント(個人/団体を問いません)は、情報は広がりやすいかもしれませんが、果たして信頼されるでしょうか?上述の引用にある「オオカミ少年効果」により失うものの方が大きいと考えます(ただし、これはSNSを含めたネットでの拡散のされやすさをとるか、情報を正確性をとるかが両立できず、対立事項になっている構造的な問題だと思います)。

3.余談

本noteの主旨からは少し外れますが、炎上に関しては、前述のような知識があれば、炎上への身の振り方の判断基準も変わってきます。
仮に炎上を見かけた時上記のような知識がなく、イメージだけで考えると、「これだけ大規模に炎上しているのだから、沢山の人々が参加しているに違いない。自分一人くらい増えても問題ないだろう」という安易な思考に走ってしまう危険性があります。このような炎上に対する対策として、法整備も進んでおり、現在ではポストしたアカウントに対する情報開示もされることがあります。2022年10月1日よりプロバイダ責任制限法が改正され、SNS等での誹謗中傷者に対する情報開示の手続きがより簡易になりました。実際、誹謗中傷を行ったアカウントに対する情報開示を行ったことがたまにニュースになります。個人で情報開示を行うには若干ハードルが高い印象を受けますが、誹謗中傷をされた側が、情報開示に関して費用や手間を惜しまず、誹謗中傷者を見つけようとする相応の覚悟があれば情報開示は可能であるとも取れるので、そこまでのリスクを背負ってまでポストする必要があるか?という問題になります。このような情報を知っていれば、SNSで誹謗中傷を行うリスクが非常に高いことが理解できますが、知らないと、実際に情報開示されて賠償を含めた様々な制裁によって痛い目を合わないと分からないということになりかねません。

参考:インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)


4.参考

4-1.参考書籍

ネット炎上の研究 Kindle版

ネットは社会を分断しない (角川新書) Kindle版

4-2.参考note

「決める」ということについて


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