HOSONO DISCS

『STUDIO VOICE』2008年9月号 特集「細野晴臣の楽しみ方!」 INFAS

はっぴいえんど『はっぴいえんど』
当時、論争にまで発展した、所謂「日本語によるロック」の嚆矢。そうした反応は、日本における米英産ロックの受容とは相容れない言葉による世界観が歌われた違和感に起因するのだろう。『風街ろまん』と比較すれば、まだ言葉や歌は攻撃的で、サウンドもよりロック的だ。唯一細野作詞になる「飛べない空」はそうした違和感の吐露のようにも聞こえる。

高田渡『Fishin’ on Sunday』
高田渡がロサンゼルスに渡って録音した本作は、まさにちょっと釣りにでもでかけたかのように、あの歌の世界はいつもと変わらない。ヴァン・ダイク・パークスの参加により、スチール・ドラム奏者ロバート・グリニッジが参加。この録音で細野が、その「天国からの調べ」に出会い、さらには発注までしてしまったということでも記憶されるべき作品。

中森明菜「禁区」
手法としてのテクノは、単にサウンドだけではなく、スタイルとして導入されるという特徴があった。すなわち、歌手の衣装や振付け、態度にいたるまでが、テクノというスタイルに塗り替えられてしまう。対してこのシングル、ジャケはややテクノな感もあるが、どこかサウンドと歌とが拮抗しつつスタイルを作っている。テクノと歌謡曲の希有な邂逅か。

YMO『テクノデリック』
フライング・リザーズなどとも同調するようだが、より緻密な音作りは他に例を見ない、YMOの特異点であり傑作。民族音楽、ミニマル、インダストリアルなどの要素や、試作機のサンプリング・マシンによる、声や工場の音などの使い方も極めてユニーク。「灰色の段階」の歌詞に見られる精神状態の表れか、全体的に神経質なトーンによって印象づけられる。

細野晴臣『花に水』
カセットブックという体裁で発表され、無印良品の店内用BGMとして制作された2曲を収録。即興的に作曲、録音されたという、いかにも装飾を控えたフレーズが繰り返されるその音楽は、タイトルもふくめどこかサティ的であり、ストレートに「環境音楽」的である。中沢新一によるテクスト「観光音楽」は、以降のモナド・レーベルの活動へと繋がる。

細野晴臣『コインシデンタル・ミュージック』
おもにCMのために作曲された「暗示的即興音楽」集。スタジオで即興的に作曲し、そのまま録音するという方法は、多忙ゆえの必然によって生まれたものだという。そこから「自分の力を超えたもの」という、啓示にも似た「新しい音楽体験システム」が作られた。事前に曲を構想することを放棄することによって作られた楽曲は、いわば音によるスケッチであり、未完成なようにも聴こえる。しかし、それこそがこの作品の最大の魅力ではないか。

SKETCH SHOW『LOOPHOLE』
エレクトロニカ、ひいてはラップトップ・ミュージックが、現在多くの表現者を擁するジャンルとなりえた背景には、機材の簡易化や共通のプラットフォームによる制作環境の定着などの理由がある、反面、表現の均質化も指摘されている。本盤は彼らの音楽的素養が反映された非常に洗練されたものだが、細野、高橋、ある曲では坂本も参加した楽曲も、ある意味ではアノニマスなものとなり、細野的な作風は抑えられているように聴こえる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?