ニック・ドレイク『ブライター・レイター』

200ロック人名事典(立風書房200音楽書シリーズ) 執筆者あとがき
2001年7月

*2000年代の前半、この手のディスクガイド本に何冊か参加した。もう20年以上も前のことなのかと驚きを禁じ得ないが、その最初の1冊が『200ロック人名事典』だった。200という数字にどういうこだわりがあるのかよくわからない。その後、プログレッシヴ・ロック、エレクトロニカ、ロック・ギタリスト、と続いたが、知り合いの編集者の退社などによって、そこで打ち止めとなった。
この短文は、巻末の執筆者紹介として、本編では入れられなかったが個人的には入れたかったディスクを紹介するという趣向で依頼されたもの。
いまあらためて聞いてみれば、とても前向きな音楽に聴こえる。もちろん、本人の意向に反したアレンジ、そのギャップによる不評と、いわば後悔のようなもの、その後の顛末まで含めれば、悲しい気持ちにもなってしまう。そうしたこの作品の裏側にあるエピソードによる印象だったのかもしれない。
文章の最後は、世良田波波の「ある夜行」みたいな感覚がある(こちらは昼だけど)。そして、アルバムの中の1曲「Hazey Jane I」は、まるでカイちゃんのための歌のように聴こえてしまう。

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僕はアーティストの個人史において、異色なものとか、評判の悪いものが偶然に好きだったりする。これは大絶賛されたファースト・アルバム『ファイヴ・リーヴス・レフト』に続いて発表され、評論家的にはオーヴァー・プロデュースとして非常に受けが悪かった(らしい)。それにしてもなんて孤独な音楽なんだろう。ロックが多かれ少なかれ他者にコミットすることに根ざした表現だとすれば、ここにあるのはそうしたことに疲れた囁きみたいだ。流麗なストリングスや、アップテンポなリズムもどんどん歌声とかけ離れていってしまう。そんな作風が僕につい涙を流させる。かつてジム・オルークもこのアルバムからの曲をライヴで歌っていたっけ。ある晴れた日、寝転んで窓から空を見ている。雲がゆっくり流れて、さわやかな風にカーテンがそよいでいる。例えば世界がこの部屋以外に存在しないのじゃないかとふと目を閉じた。

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