ヨハン・ヨハンソン インタヴュー

『intoxicate』Vol.69(2007年8月)

 アイスランドは、一部が北極圏にかかる国土の一一パーセントが氷河に覆われ、また火山、白夜、オーロラ、といった自然環境に恵まれた北大西洋の小さな島国である。
 しかし、彼はそうした自身の原風景ともいえるものをロマン主義的に、音楽によって描写しているのではないとする。「アーティストは自身の置かれた環境やとりまくものに影響されるものだが、それは感情の状態に関係するもの」であり、そこから「風景の音楽」を作ることが目的なのではない、と彼は言う。
 とはいえ、Touchからリリースされたファースト・アルバム『エングラボルン』では、ジャケット写真がその音楽をよく表わしている。その薄暮に消えかかる水平線と茫洋とした海原が、どこか引き返せない場所に通じているかのような印象を与えるように、ストリングスやピアノの深い響きは幽玄とした音空間を作り出している。
 前作『ディース』は、彼のもうひとつの側面であるアパラット・オルガン・カルテットに繋がるポップサイドを表現したものだったが、もともと独学で楽器演奏や作曲を学び、八〇年代中頃、彼曰く「ノイジーなギターを演奏する」バンドを結成したのが音楽活動の始まりだ。「4トラックのカセット・レコーダーで、スーサイドや、ライヒ、グラスといったミニマリズムに影響を受けて、ディストーションをかけたギターやフィードバックによる十分から十五分の曲を録音」していた。
 そして、バンド活動をへて、九〇年代前半に、ノイズ・エクスペリメンタル・シーンの重鎮ともいえるハフラー・トリオのアンドリュー・マッケンジーと出会う。同じビルにスタジオを持っていたことがこの邂逅を導いた。彼の作品に聴かれる微細な音響は、ハフラー・トリオからの影響を感じさせる部分もあるが、マッケンジーからは音楽的な影響よりも、むしろ彼の考え方からの影響が大きかったそうだ。
 今回のコンサートでは、ハモンド・オルガンやアップライト・ピアノ、レスリー・スピーカーといった、木製のアンティークのような外観を持った楽器がステージ上にならび、それにチェロとエレクトロニック・パーカッション奏者を加えたアンサンブル、そして、中谷芙二子による霧の彫刻とによって演奏された。彼はこれまで「アコースティック楽器とエレクトロニクスのコンビネーションに関心を持ってきた」と言い、それが「極端に反対のものとしてぶつかりあうこと」が自身の音楽を特徴づけるものであるとする。4ADからリリースされた『IBM1401, A User’s Manual』では、IBMメインフレーム・コンピュータの技師だった彼の父親が、コンピュータの引退に伴い行なったというセレモニーに想を得て、彼の使用しているハモンド・オルガンと旧式の大型コンピュータとが「オールド・テクノロジー」のアナロジーとして、ストリングス、エレクトロニクスを介して結びつけられている(録音はオーケストラ用にリアレンジされている)。

ヨハン・ヨハンソン コンサート二〇〇七年七月十一日、日本科学未来館
ヨハン・ヨハンソン『エングラボルン』(P-VINE PCD-22286)

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