フェネス インタヴュー

『intoxicate』Vol.79(2009年4月)

 フェネスといえば、ギターとDSPとエレクトロニクスを駆使して紡ぎ出される、どこか郷愁をさそうサウンドにおいて印象づけられてきた。しかし、最新作『ブラック・シー』では、近年のさまざまなコラボレーションによって得られた新しい方法論によって、これまでの作風とはやや趣を異にし、どこかクラシカルでもあり、トラディショナル・ミュージックの要素すら感じさせるものへと変化をみせている。オーケストレーションを意識したコンポジションを行ない、また、制作期間には、バロックやルネサンス期の音楽から、西アフリカ(マリ)のトゥマニ・ジャバデなどを聴いていたそうだ。それは、空気感を感じさせる残響や、フィールドレコーディングを思わせる音像(実際にはフィールドレコーディング音源はほとんど使用されていない)などの細部から感じとることができるだろう。今回レコーディングで使用した楽器は全てギターだが、アコースティック・ギターやナイロン弦のギターを、マイクを使って録音したものもあるという。また、ゲスト参加したアンソニーが弾いたプリペアド・ピアノもマイクを使って録音されている。
 『ブラック・シー』をはじめ、『エンドレス・サマー』『ヴェニス』と、これまでの作品に与えられたタイトルは具体的な地名やジャケットの写真とともに映像を喚起するものだった。「タイトルが思い浮んでから、それに対する曲をつけた」というように、ある意味描写的な要素を持っているが、かならずしも具体的に音楽と密接に結びついているというわけではない。むしろ事後的にある曲が自身の記憶と結びつくこともあるという。
「年中旅をしているので、曲を作った後に、これまでに行った土地の記憶と照らし合わせて、地名を曲名につけることも多い。作品を作るという事自体、ある意味では自分の記憶をたどる作業でもある。自分の創作のなかで一番大きなテーマは、記憶かもしれません。音の記憶や場所の記憶です」
 サンプラーやPowerBookといった機材は「すべてを自分一人で出来るという意味では革命的」なマシンだったが、逆にエレクトロニックな音楽が「ギターをまた面白いものだと思わせてくれた」というフェネスは「今の自分のスタイルとはまったく結びつかない」と前置きしながら、好きなギタリストとしてニール・ヤングとジョージ・ハリソンの名前を挙げた。
 今後の予定としては、アメリカのバンドのSparklehorseとの共作、マイク・パットンとのライヴ録音のリリースが予定されているそうだ。そして、ついにジム・オルーク、ピタとのトリオ、フェノバーグの新作の制作を東京で行なうことが決まっているという。「今まではデータをやりとりして作られたものだったが、ようやくスタジオで録音する。それぞれみんな意欲的に活動しているので、出来上がりが楽しみだよ」


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