沈黙から立ち上がる「気配」——V.A.《ホーンテッド・ウエザー》

『musée』Vol.49(2004年5月)

 デイヴィッド・トゥープによるコンピレーションは、一九九六年に発表された『Ocean of Sound』にはじまり、以後四枚、さらに二〇〇〇年にロンドンのヘイワード・ギャラリーで開催された展覧会「ソニック・ブーム」のCD付きカタログ、『レオナルド・ミュージック・ジャーナル』の付録だった『Not Necessarily "English Music』などがある。なかでも『Ocean of Sound』は、ドビュッシーからエイフェックス・ツインまでを、時系列や各々の直接的な関係性によらない、音楽の「もうひとつの聴き方」の提案とでもいうべき接合によって構成し、さまざまな音/音楽が溶け合った海の中にわたしたちの耳を招き入れた名コンピレーションだった。
 最新CD『ホーンテッド・ウエザー』は、現在のサウンド・アートおよび同時代のテクノロジー・ミュージックを、独自のパースペクティヴによって編纂したもので、同時に同名の評論集も刊行されるというように、それは九六年から現在にいたる、彼の音/音楽に対する思考をさらに展開したものになるだろう。著書の副題となっている「音楽」、「沈黙」、そして「記憶」をめぐるさまざまな思考を反映したこのCDは、二〇〇〇年にICCの展覧会「サウンド・アート——音というメディア」に出品のために来日した時に参加したイヴェントの体験をきっかけとして発想されたという。即興音楽、フィールド・レコーディング、ポスト・サンプリング、グリッチ、エレクトロニカ、サウンド・アートという同時代のいくつもの文脈を連結していくこのCDのタイトルが示唆するものとは、端的にいえば、沈黙から立ち上がる「気配」のようなものだ。「音はどのように制作しても、奇妙で予期せぬ方法で記憶と共鳴するものなのです」とトゥープは言う。そこには、これまでいくつものコンピレーションをトゥープが編纂することを可能にした「聴く耳」の存在を意識させられる。クリスチャン・マークレーからオヴァルへと録音メディアの変遷をなぞりながら、マトモスからテーリ・テムリッツへと、テクノロジー・ミュージックの歴史をトレースするかのように、アナログとデジタル、音と沈黙、といった対立あるいは協調する項目をトゥープの耳/記憶によって接合していくこの「つなぎ」は絶妙である。また、Haco、角田俊也、Yuko Nexus6、大友良英、Sachiko M、秋山徹次、中村としまる、杉本拓、池田亮司、渡邊ゆりひと、といった日本人アーティストが多数取り上げられており、二〇〇三年にロンドンでトゥープと共演した鈴木昭男も参加している。
 それぞれの連鎖のなかには、アーティスト自身も予期しえない可能性が隠されているかもしれない。それは、もうひとつの創造性へと結びつくクロスポイントであり、わたしたちの「記憶」の残響とともに、さらにそれを未来へとサウンドさせる回路/通路となることだろう。

V.A.『Haunted Weather』Staubgold(日本盤)STAUB-JP2/HEADZ26、二〇〇四年

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