ジャーマン・エレクトロニック・ミュージックの現在——「Soundz from Germany 2005」

『intoxicate』Vol.55(2005年4月)

 九〇年代後半以降に顕著になったラップトップ・コンピュータを用いて演奏される電子音楽の隆盛がもたらしたものとは一体何だっただろうか。インターネットによるコミュニケーションの世界的規模の拡大、ソフトウェアの開発やその情報共有における世界的なネットワークの構成などを背景として、音楽的な内容はもちろんだがそれ以前に「ラップトップ・ミュージック」は、いわばスタイルとしてあっという間に波及、定着していったようにみえる。そこでは、デジタル技術の簡便化が可能にした固有の音楽表現が生まれ、たとえばいわゆる「グリッチ」と呼ばれるような新しい美学が導かれることにもなった。
 そうした「ラップトップ以降」の音楽の特徴のひとつとして指摘されていることに、その音楽性がナショナリティやローカリティに依拠しない、ということがある。これは、ラップトップ・コンピュータとソフトウェアという世界共通のプラットフォームを共有することで、文化的差異を強調することなしに、その音自体が共通言語として通用するようになったということだろう。
 さて、ではこのような「ラップトップ以降」の電子音楽の状況において、たとえば「ドイツの音楽のオリジナリティ」とはいかなるものでありえるのか、と問うことは可能だろうか。
 しかし、ことドイツとなると話は別ということになってしまう。なぜなら電子音楽こそは、ドイツの音楽を特徴づけてきたもののひとつであり、クラフトワークの登場以降、ドイツ発の電子音楽はポピュラー音楽の世界において世界的に伝播し、世界の各方面の音楽に大小さまざまな影響を与えてきたのだから。
 アフリカ経由アメリカ発の「ロック」に対する外部として、その時点ですでにある種の周縁的な独自性を帯びたものとしてあったいわゆるジャーマン・ロックは、その非ロック的に変調されたエレクトロニックで人工的な質感を特徴としてノイエ・ドイッチェ・ヴェレに至り、やがてアメリカ,イギリスの「ロック」へと再帰し、参照され影響を及ぼすに至り、やがて「パンク」「ニュー・ウェーヴ」「テクノ」「ディスコ」「ハウス」といったジャンルへと翻案されることになるのは周知の通り。
 「Soundz from Germany 2005」は、文化交流事業「日本におけるドイツ年二〇〇五/二〇〇六」の一環として企画されたドイツのポップ・エレクトロニック・ミュージックを紹介するショウケースである。主な出演者は、ジャーマン・ニューウェーヴの老舗的レーベル、アタタック(ATA TAK)を興し、昨年なんと十一年ぶりという新作を発表し、ついには再来日を果たすデア・プラン(あのオヴァルは最初の作品をアタタックからリリースしているのだ)。おなじみマウス・オン・マーズもより強力になって帰ってくる。これまでに膨大な量のCDリリースしているアトム・ハートの変名プロジェクトであり、クラフトワークをラテンでカヴァーし話題をさらったセニョール・ココナッツ。ポールやモノレイク、さらには初来日を果たす未見のアーティストたち。
 そこにはドイツの電子音楽の連綿たる新しいものの伝統が垣間見えるだろう。

「GOETHE-INSTITUT TOKYO presents “SOUNDZ FROM GERMANY” festival 2005」
 二〇〇五年五月二日、三日、東京・Shibuya O-East、Shibuya O-Crest
 二〇〇五年五月五日、大阪・心斎橋BIG CAT

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