【展示補足】一両二分の茶漬け 現代語訳

享和の頃浅草三谷橋の向かいに、八百善という料理茶屋が流行した。深川土橋の平清(ひらせい)や大音寺の田川屋、これらは文化の頃から流行していた料理屋である。ある人の話では、酒も飲み飽きたところで、「八百善に行き、極上の茶を煎じさせ、香の物の茶漬けがほしい」と言って、何人かを連れて八百善へ行った。茶漬けを頼んだところ「しばらくお待ちください」と言って、半日がたっても料理が出てこない。ようやく香の物と煎茶の土瓶が出された。香の物は春の頃にしては珍しく、瓜と茄子の粕漬を切りまぜにしたものであったが、それ以外は普通の料理であった。
食事が終わって値段をきくと、金一両二分(現代の価値でおよそ1万200円)だという。
客はしらけて「どれほど珍しい香の物だろうと、あまりに高すぎはしないか」と聞くと、亭主は答えた。「(香の物はともかくとして、茶には高く値段がつきます。)土瓶には半斥(現代の価値でおよそ300円)も入りませんが、茶葉に合う水が近くに無いために、玉川上水まで人を水汲みに行かせております。お客様を待たせ早飛脚で水を取り寄せており、この運賃が莫大となってしまったのです。」

※一両=およそ1万円として計算

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