心理学で統計学を使う理由について

心理学と統計

今でこそ、「心理学部」という学部が設立されている大学がありますが、かつては、たとえば「文学部心理学科」とか「社会学部心理学科」とか、いわゆる「文系」(この言い方もそろそろ死語にしたい)の学部の中に心理学のコースが設置されていました。なので、私のように数学Ⅱの途中で完全離脱、みたいな人が誤って(?)心理学科に入ったりすると、統計の授業で倒れる、みたいな事態が発生するわけですね。「文系だから選んだのに~!」という悲痛な叫びがあちこちから聞こえたようなのです。

かく言うわたしも、統計をかじり始めるといきなり登場するこんな記号($${\sum}$$)や、もう少し掘り始めると再登場するこんな記号($${\int}$$)にたいそう面食らったものです。でも、この数学記号の話は後回しにしましょう。

本文にも書いてあるように、心理学で統計を使う理由は、最終的には「限定的なデータから、人一般に当てはまる法則性を明らかに」したいからです。心理学は、実験や調査に参加していただいた限定的な人について理解したいのではなく、最終的には人の「心」というものについて、理解したいと考えているからです(たぶん)。(現実には、世界中で同じように心理学研究が行われているわけではないので、特に、一部の研究については、アメリカの白人のしかも男性しか調査していない、なんていうのもあったりします。これをもっと一般化していくことも、これからの課題なのでしょう。)

おしゃべりはこのくらいにして。

練習問題


Q1:心理学で統計学が必要な理由はなんですか。テキストの記述をもとに簡潔にまとめてください。


Q2:推測統計学の4つの目的を列挙してください。


Q3:上記の4つの目的のうち、心理学ではどれに最も重点を置いているといえますか。また、それはなぜですか。


Q4:推測統計学を用いて「実験室で得られた因果効果を一般化したい」と書かれていますが、そのような「一般化」ができるためには、いくつかの工夫が必要です。後の章でそのことを学んだら、この章にもどってきて、どんな工夫がなぜ必要かをまとめてください。その際、必要であれば適宜、他の教科書も参照してください。


以下、解答案です。


A1:心理学の目的である「人一般の理解」(人の心はこのようになっている)のためには、実験室で得られた因果効果(あるいは調査によって得られた関連性)を一般化したいから。一般化とは、限られたサンプルから得られた結果を、より大きな集団(例:日本人全体)にあてはまるものとして示すことと理解しましょう。
因果効果は聞きなれない言葉ですね。


A2:①対象の測定、②将来の予測、③因果関係の推測、④現象の説明。このうち心理学では因果関係の推測を中心的に扱う。ただしこれは、あくまでも私が参照しているテキストの著者の立場です。異なる立場をとる心理学者もいるかもしれません。


A3:最も重点を置いているのは因果関係の推測である。心理学では、どのような処置や介入が、人の行動をどのように変化させるのかに興味関心があるから。ここで「行動」という語に注意が必要である。日常的には、行動とは「何かをしようとして実際にからだを動かすこと」(新明解国語辞典)という意味だが、心理学ではもう少し広く「観察可能な反応や行為」と考える。そして、観察された行動の変化から、その背後にある心のはたらきを推測している。


A4:無作為抽出、無作為割り付け、剰余変数の統制など。それぞれについての説明は省きます。