一蓮托生-刀ミュ陸奥一蓮感想

刀ミュ出演経験のあるキャストで固められた本作「ミュージカル刀剣乱舞 陸奥一蓮」
実力故の迫力や脚本の面白さなど相まって楽しい公演期間を過ごさせてもらっています。

だって、一蓮托生ゲーム!?
何です??って思いました。内容が面白いのはそれはそうなんですが…
一蓮托生というのは仏教的に同じ蓮の上に生まれ変わるという教えから来ているそうで……
はてさて、1部では花の半座を分かち合いたい(分かち合っていたのに)と歌うシーンがありますが……一蓮托生ゲームってそういうやつですか?2部ナイズされて明るいだけで全然本編……

さてまずは全体の感想ですが、
今作も前作花影、パライソ、伊達双騎と同じように、刀剣男士の物(審神者と歴史のために働くもの)としての側面が強く表れていたかなと。
三日月宗近をはじめ、古参という設定の刀剣が多いからでしょうか。感情と思考を持つことを肯定しつつ、しかし審神者に尽くす忠誠心と優しさが良いバランスで描かれていました。
「ただの物が何を憂う」という一方で「感情に支配されると隙ができる」。難しいところ。

刀ミュでは桜は刀剣男士の比喩であり、当の彼らも桜と自分たちを同じ「意思のないもの」に分類される仲間だと思っている節があります。
刀の声を聞こうとして間違いを犯した目利きに「恨めしく思うのは人だ。桜じゃない」と告げたり、今作では「桜に人見知りも何もあるか」と突っ込んだり。彼ら自身もそうであると体験を持って知っている、そんな口振り。刀剣男士は違うけど、刀としては性格も感情もない。そういう割り切りがだんだん強くなっている気がします。

総括して技術的にも迫力、心情推移、盛り上がり、歌、殺陣と非常に完成度が高かった印象でした。
厚みがあって、歴史を守ることへの迷いや悩みがない大人っぽい部分と言うのか成熟感がよく表れていました。これは脚本の性質もあると思いますが。
軽い小道具の刀でも、全然このまま当たったらやばいと思う勢いで風を切っていく。効果音やBGMの迫力も現地ならではで鳥肌が止まりませんでした。

ストーリー(脚本)について

脚本は盛り上がりがありつつ綺麗に上品にまとまっている印象でした。

まず本丸の知られざる謎についての提起から始まり、検非違使と三日月の登場で揺れる刀剣男士を描く。
辛勝ののち、本丸に帰ることで彼らの心が変わっていく。どうすれば勝てるのか、鶴丸たちが抱えている悲しみは何か。今まで聞けなかったことを聞く決心、三日月に心を寄せ理解しようとする姿勢、各々が前を向き始める。

そして、再出陣。それは奇しくもあの"とある刀剣"が折れたときの状況とよく似ていた
山姥切国広が隊長であることも、三日月や鶴丸がいることも。
ただ違うのは山姥切が過去を乗り越え隊長を名乗り出たこと、古参の刀もあれからたくさんの経験を積んできたこと、そして新しい仲間がいること…

再び現れる検非違使を前に加州が折れかける。でももうあの時とは違うのですよね。鶴丸は固まっていましたが、立ち直り、あの最悪の出陣のリベンジを果たす。
帰還した彼らはまた一歩踏み出すために、本丸に起きた悲しい秘密を知ることとなる。

シビアで切ないのに、迫力と美しさのある脚本。本当に面白かったです。
歴代の持ち主を守るための戦いか殺すための戦いか、それだけじゃないんですよね。三百年、パライソ、江水など、刀剣男士が自分とは関係のない人と関わりを持ったり、民衆を歴史通り斬らなくてはならなかったり、思うことはそれぞれ違う中で一つになっていく。それが刀剣乱舞の醍醐味だと感じました。

また本丸帰還後、戦いと戦いの間で刀剣男士が何をしているのか。束の間の日常の会話劇を描いてくれたのも嬉しかったです。
帰還前に鶴丸が「別の部隊を組まないでくれよ」と密かに願っていたこと、刀剣男士たちが次の戦いのために行動していたこと、パライソ挨拶での「またすぐにでも戦場に連れ出してくれよな」という言葉もあわせて彼らが普段どんな思いでいるのかひしひしと伝わってくる構成でした。

殺陣と演出の魅力

細かいところで言うと今回殺陣がかなり魅力でした。動きの音や素早さがいつもに増して激しかったように感じました。

全振りもれなくぼろっぼろ
血だらけのぼろぼろで地に伏し、息を切らして戦う。美しく戦う刀剣男士も魅力的だけど、命を張って泥だらけになりながら死に物狂いで戦う彼らも魅力的なのだと再確認。
思えば原作ゲームはその側面にも重点を置いているので原点に帰ったような感覚もありますね。
中傷、真剣必殺と、特殊メイクをしたり板の上で徐々に脱ぐという古典的な演出(これがかなり好き)を使用したり演劇の妙が盛りだくさんでした。このあたりは江水散花雪に近かったかな。
刀剣男士同士の戦いも殴る蹴るがふんだんに、どころか、思い切り斬り合っていて見どころ満載でした。肉を断つ音も血振りして飛び散る血液の音も生々しいSEが鳴ってどこまでも本物っぽかったです。

あとは音楽の演出が印象的でした。
クライマックスの戦闘で、戦闘に参加していない三日月がバックで歌う。阿津賀志山の公演を思い出して切なくなりつつ、戦いの苛烈さの臨場感が増していて良かった。
更にピンチで流れる刀剣乱舞アレンジ。彼らが今まさにこのミュージカル刀剣乱舞シリーズの物語における山を乗り越えんとしている。そう思える演出だった。
そして加州清光の真剣必殺ののち、音が止み、静かな歌声で締められる。完璧なクライマックスでした。

キャラクターごとの感想

・三日月宗近
歌も芝居も段違いでした。上から目線すぎるかもしれませんが、こんなに厚みのある歌声だったっけ!?と驚きがすごくて。殺陣の重みもすごかった。そのままこっちまで飛んできそうなくらいの臨場感と、足を踏み鳴らす音の重さが別格でした。
鶴丸と互いの腕に当てた刀をひきあって斬り合う時、その痛みに耐えるような表情がなんとも言えず。物理的な痛みだけでなく悲しさで痛む心が表れていてこちらの心まで痛みました。前に進めないままでいる三日月を引き戻せるのは誰なんでしょう。
2部で洋服を着ているとめちゃくちゃ大きく見えて、実際大きいのですが、精神的な器の大きさも感じました。アドリブも後ろから見つつ咄嗟に三日月らしい発言がぽんぽん飛び出してきて見応えがありました。

・鶴丸国永
汚れ役を引き受けていてパワハラ気味なこの本丸の鶴丸が好きなので今回も飛ばすな〜と思いながら見ていました。感情を殺そうと頑張って、でもふとした時寂しさや悲しさが顔に出てしまっていて胸が締め付けられます。
厳しいことを言ったあと大包平に謝られた時とか、水心子をぼこぼこにしておいて手を差し出したときとか。苦しいけどちゃんと引き受ける悪の部分を誤魔化さず、しかし理解され好意を向けられると慈しみの本心が溢れ出そうになって繕う表情と声。本当にうまい。
あんなに苛烈で割り切っていても主と、主のためにある本丸という組織自体には忠誠心が高く優しい。だから個人個人には厳しくて任務のためなら汚れ役を引き受けられるのでしょうね。立派な刀剣男士で、あんなに愛らしい見た目なのに頼もしい限り。
2部では前方客全員を見るぞと言わんばかりに目を合わせたり一人ひとりに向かって手を振ったり。セリフを読むのではなく語りかけるように話していて印象的でした。あとすごい喋る。積極的に絡むし思ったことは言うし、そうやって他の男士を引き立てることもある。エンターテイナーでした。
戦闘衣装の飾りが綺麗な音を奏でていて美しかったです。そこにいるんだなあとしみじみ。

・山姥切国広
鶴丸たちの事情を知りながら見守りつつ皆との間も取り持つ頼れる古参。江水を乗り越えた後の山姥切がそこにいました。初期の面子故に責任感があるのはわかりますが、審神者から見たらあなたも大事な刀剣男士の一人なのにと江水では思っていたので今回の成長が嬉しかったです。
大包平の傷を抉り叱咤する鶴丸のことも無言で咎め、隊長のときは大声で指示を出し古参の自覚も強く、折れそうな加州に叫び、仲間と頷きやアイコンタクトを欠かさず戦う強者感が強かった。
立派で頼もしくて、ガタイがいい。真剣必殺時も皆筋肉はありつつも細い!薄い!なスタイルなのに彼は同じ細さでも厚みと骨太感があり力強い山姥切国広。なのに手押し相撲では鶴丸に負けがち。声を抑えてぽつりと爆弾をぶっ込み、それを鶴丸に大きく復唱され怒られているのがツボ。
歌が上手い!控えめなのに動きが大きい、この塩梅も素晴らしい。
強いと褒められた時、仲間が笑っている時、密かにだけど彼も口角をあげていて微笑ましかったです。
百花絢爛ではにこにこ笑っているのにMCなどで笑いそうになるとくるりと後ろを向く。このバランスも好きです。
後ろを向いた時の布をかぶっているが故の独特のフォルムも良いですね。
ファンサはゆるめだけどじっと目線をくれる。山姥切っぽい。

・加州清光
加州清光が蝦夷や朝廷へ向ける眼差しと敬意、元の主と重ねて「勝てやしない悲しさ」と「戦う人への敬意」がぐちゃぐちゃに放出されていてその気持ちが痛いほど共感できて好きでした。
経験を積んで逞しく可愛くなっているけどそれでも修行前の加州清光。役者さんの誰かの芝居を受けての芝居が上手いから更に加州清光さが増していました。本当に阿津賀志山が懐かしい。あの時も加州清光だったのに、さらにこの上があったんだと驚きました。彼が舞台にハマるきっかけでもあったので久しぶりに本公演で見られて懐かしいやら思い出が蘇るやら。
顕現順の設定としてはメンバーの中では中間に位置していますが、役者さんの芸歴と刀ミュ歴は先輩なので2部はがつがつ前に出ていて場を盛り上げてくれていました。

・蜂須賀虎徹
気づきを与える側に回った彼は強いですね。芯があるから惑わされない。彼も何かを知っているわけではないけど教えてほしい、聞けない、となるのではなく、こうなのかなと想像して自分の推測を信じて傍観している。でも話してくれるなら受け止める。厳しそうに見えて全然厳しくないどころか世話役側なところが初期刀組の一員っぽくて素敵でした。
ファンサービスが手厚くてノリノリでした。とにかく全て拾うし手を振りかえしてくれる、本当に手厚い方。
髪の毛がまた一段と綺麗になって、絡まず全くボサボサにならず、あの技術力にはいつも驚かされます。

・大包平
古参の背中を押す新人の役割を担う。新しい仲間が増えるというのは変化であり、彼ら新刀剣男士は停滞しないことの象徴でもあると思っています。
江水では隊長としての後悔がある山姥切国広を変え、今回は知りたいことを聞き出せずにいる加州清光を変えた。光であろうともがく彼らしさに溢れていました。
特に「桜のほうが一本多い」と聞いた時の表情が良かったです。山姥切から聞いた「一振り折れた」という江水での言葉を思い出して、目を泳がせて、夕餉に行こうとあからさまに話を変えるところから彼の思慮深さがよくわかる。素直すぎて声が大きくて溌剌としていますが聡くて優しいんですよね。
検非違使相手に息も絶え絶えで応戦する姿も人間相手の余裕の応戦も見られたのが個人的に嬉しかったところです。彼の殺陣は特に人外感増し増しで美しかった。

・水心子正秀
彼も多くを知らない新刀剣男士ですが、知らないなりに知ろうとして、手入れ後に休みもせず三日月宗近に思いを馳せている。やっぱり優しいし真面目だなと思うわけですが、鶴丸の監視を頼まれてすぐ意を汲み取って動いたり、いきなり襲いかかってきた鶴丸にも「何のつもりだ」と問いながらきちんと応戦したりなど冷静さを持ち合わせていて彼がいて良かったと思うところが多々あります。
箸の持ち方が、正しくないとかおかしいのではなく不思議な感じに見えたのですが、左利きらしいですね。それが仕事とはいえ右手で箸使ってるのすごい……。

2部のMCと曲について

一蓮托生ゲームとかいう激重ゲームについては前述の通り。
禊形式も好きですがこういった形式の方がセリフや出番が増えて偶然の面白さも生まれるので好きかなと。個人的に、前に前にと出る実力がある人ほど撮れ高を得られるのでいいシステムだと思う。
おおよそは決めているとは思いますが、球を引いてペアを作る部分に仕込みや忖度がなければ言動は殆どアドリブになるわけですから。

全体曲の百花絢爛は事前に解放されていてその時はへ〜〜と思いながら聞いていました。
蓋を開けてみたら、これあなたたちの歌じゃん……と再び歌仙兼定(おそらく)の「僕たちは君の愛で咲く花だから」を思って切なくなりました。
百花繚乱舞って、百花繚乱散って、満開のflowers……蓮のうえで仲良く手押し相撲でも刀剣知恵の輪でもちり紙浮遊対決でもしていてくれ…

以下曲の感想。
・山姥切はDanger boy……?
・加州ソロの、ずっとそばにいられますように、まだ俺は愛されていますかが愛で溢れすぎていた
・大包平は東西南北にかけていく……今は思考も肉体も口もあるから、その手で功績を掴み取って頂を目指してほしい
・風とアゲハって歌仙???振りが独特で好きでした

歴史とシリーズの主軸について

「僕たちは君の愛で咲く花」こんなぐっとくる台詞が他にあるでしょうか。
私の本丸の刀剣男士たちも私の愛でここに生まれ、ここで生きている。
作中で幾度となく歌われた「この地に生まれ、この地を愛し、この地で芽吹き、この地で咲いて、朽ち果てる」は歴史的人物だけでなく今を生きる人も刀剣男士も例外なくそうなのでしょう。この地というのが変わる人もいればいくつもある人もいて、あるいは職場や所属する団体のような「居場所」を想像する人もいると思います。

蝦夷への侵攻の善悪は語ることができない。もちろんこの世には片方から見たら正義だねというようなものもある一方で、これは絶対的に悪だとされるものもあるでしょう。しかし、1000年も前ではあまりにも世界の解像度が違う。
政治を執り行って国を存続させてきた貴族たちの功績を否定することはできないし、かといって侵攻を肯定することも、平和な時代から敵を肯定しろと偉そうなことを言うこともできない。し、これについては各々の考え方があるでしょう。
なのでここには私の考えは書きませんが、刀ミュの物語としてはしっかりと噛み締めさせてもらいました。
最後平泉にいた子供は源義経だったのでしょうか。幼すぎた気もしますが、セリフのタイミングとしてはその可能性もあるのかな?

楽しく締めたいので日替わりの好きなシーンをただ並べます。
長々書きましたが刀ミュの集大成であり、しかしここで真実を明言しないあたりまだ刀ミュは続くんだなと安心してもいます。たくさんのメディアミックスがあり、たくさんの本丸があり、経験や顕現順でこんなにも性格や関係性が変わるのかと、この刀剣乱舞という作品の可能性の高さに毎度驚かされます。
今後も楽しみですし、まだまだ残りの公演や配信もあるので引き続き楽しみに応援しております。

おまけ MC日替わり好きなシーン覚書

本当にただ列挙するだけです。以下。
・蜂須賀「時間止め機」
・三日月は何故かずっと腰が低め
・水心子がよろけると必ず助けに行く鶴丸
・投げられた球が頭や首にぶつかる山姥切
・舞台から落ちて機材のポケットに入った球を這いつくばって取りに行く鶴丸
・水心子&加州&鶴丸vs蜂須賀&大包平&山姥切の体格さを鶴丸が指摘。たしかに全然大きさが違った。
・籠を背負った水心子が可愛いと言われて羨んで交代しようとする加州
・…が同じく可愛いと言われた大包平には鶴丸が「おいおいこれも可愛いのか?」
・鶴丸とペアになった山姥切。鶴丸に背丈を合わせようと屈んで「舐めるなよ」とキレられる。こういうところ、この本丸の鶴丸らしい。
・ちり紙浮遊対決で手は使わないんだよな?と問う鶴丸に強めに当たり前じゃんと返す清光。鶴丸の方が怒られてるのが、2部って感じがする。役者さんの性質も含めた実写化の良さ。
・ちり紙が客席に落ちていくのを身を乗り出して取ろうとする三日月と大包平。大包平は待てー!行くなー!の叫び付き。
・山姥切と鶴丸、ちり紙をトス出来ず二振りして仰向けに倒れる
・俳句対決で立ち位置を誤ってトリを選んでしまった山姥切が可哀想で可愛かった
・大包平と同じチームになり、うるさいから嫌だ〜と嘆く加州と力尽くで押し除けようとする山姥切の性格の差
・MC終盤、山姥切が階段の上で待機しながら吹き出してしまったのを鶴丸に目撃され、指を差されて余計に笑ってしまう
・水心子は我が主がそう言うなら……といつも審神者を優先してくれる。優しい。でも俳句が大真面目か大喜利かは真に受けないでいいよ。
・清光と山姥切がずっとこそこそ綿密にちり紙の作戦を立てていて全ては聞き取れなかったのですがいい関係性だなと思った
・舞台から舞台下の地面までの距離も計算に入れろ!と舞台から身を乗り出して指摘する加州。皆もしゃがんで舞台の下を覗き込んできて、多分客降りを除けばあれが一番距離が近かった。結構長い間そうしていて最高の時間。まつ毛と瞼が綺麗〜。
・手でちり紙を扇いでアウトになる蜂須賀(と水心子供)、すぐ始めずアウトになる鶴丸と大包平。周りが反則負けして優勝できたあたり、山姥切が胡座をかきながら神妙に頷いていた。

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