文化ケアを考える
はじめに
「文化ケア」って何だろう?私が日本にいたころは外国人の患者さんに出会ったことはありませんでした。20年前(2001年)オーストラリアにやって来て、看護師として働く私の周りは全ての患者さんが外国人です。移民大国オーストラリアならでは。いろんな文化背景を持つ患者さんのケアに関して私が経験したことをお話してみたいと思います。
マデリン・レイニンガー文化ケア理論
看護の領域における「文化ケア」は1950年代、米国で提唱され、その背景には多民族国家である米国の特徴が影響していると言えます。マデリン・レイニンガーの文化を考慮した看護ケアとは下記のように述べられています。
”有意義で有益で満足感をもたらすようなヘルスケアまたは安寧のためのサービスを提供もしくは支持するために、個人、集団、組織の文化的価値観、信念、生活様式に合わせて行われる援助的かつ支持的で、能力を与えるような行為または意思決定を意味する”(レイニンガー看護論:文化ケアの多様性と普遍性より)
つまり、患者さんの文化、習俗、宗教などによって健康のとらえ方や死生観などに違いがあり、看護師はそれらを理解・考慮して援助していくことが大切です。治療や処置はどこの国でも大きく変わることはないと思いますが、文化や宗教の違いから看護ニーズが違ってくるということです。
イスラム教徒の方の看護
私が経験したイスラム教徒の方のお話です。とにかく家族の関係が密である。面会も一度に大人数で訪れるので、その対応が大変な時もある。オーストラリアの病院は宗教食にもいろいろと対応してくれるところがほとんどで、事細かくオーダーできるシステムになっている。これには驚いた。イスラムの女性の方は男性からケアを受けることを嫌うので、女性看護師が対応できるようにスタッフィングも可能な限り調整したりと配慮する。ある日、死を目前にした女性患者さんのご家族から「メッカの方角に向けて頂けないだろうか?」と要望された。が、私はメッカの方角がどこなのか知らなかった。看護部長に聞いたところ、「こっちよ」と言って教えてくれた。過去にもこういうケースがあったのかな?と思った。
話は違うが2019年のマレーシア旅行での事。宿泊していたホテルの天井に黒いマークを見つけた。「何だろう?」と思いWikipediaで調べてみたら、”マレーシアやインドネシアの宿泊施設では礼拝の便宜を図り、天井などに「Kiblat」「Qiblat」などと記された、メッカの方角を示す表示がされていることが多い。”——と書かれていました。確かに、文字はさかさまになっているが、Qiblatと書かれているではないですか。その時の写真がこれです。この海外旅行で知ったQiblat=メッカの方角、の知識が役立ちました。患者さんのご家族からメッカの方角と言われた時にすぐに理解ができました。
在留外国人ってどのくらいいるの?
日本にどのくらいの外国人が住んでいるのか?増加傾向にあるのか?調べてみました。2019年末現在、在留外国人数は293万人を超え過去最高を記録し[1]、訪日外客数も2014年以降急激に増加し、2019年度は3千100万人を超え2018年度と比較すると2.2%増加しています[2]。在留及び訪日外国人数の増加は、日本の医療機関を受診する外国人が増加する可能性が高くなると考えられます。看護の対象者は日本人だけだった私の時代とは大きく異なります。看護実践において、外国人患者さんをケアする場面はますます多くなるでしょう。 [1] 法務省. (2020). 令和元年末現在における在留外国人数について. [2] JINTO(2020)訪日外客数
外国人受け入れの現状と看護の課題について考える
日本ではどのくらいの病院が外国人患者を受け入れているのか?そして外国人患者に対してケアを提供する看護師たちの課題は何なのか?考えてみたいと思います。厚生労働省が全国の病院を対象に平成30年に実施した外国人患者受け入れ状況調査によると、回答した病院の約50%が外国人患者を受け入れていたと報告しています[3]。2015年の経済産業省の調査では、外国人患者受け入れの課題として、多言語・異文化への対応が困難とする回答が最も多いと報告されています[4]。このような急速なグローバル化の中、看護の対象は日本人のみならず外国人も安心して日本の医療機関に受診できるよう、日本の看護師らが文化の多様性を認識し知識と理解を深め、文化的能力を身につけることは必須です。看護学教育モデル・コア・カリキュラムにも記されているように、対象者のニーズに応えるための看護実践ー文化的背景を考慮した看護の提供ができることが看護師の役割として求められているのです。 [3] 厚生労働省 医政局 総務課 医療国際展開推進室 (2019) 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査について(概要版) [4] 商務情報政策局・ヘルスケア産業課・国際展開推進室. (2015). 第2章・国内医療機関における外国人患者の受入状況
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?