モフ岡デミタス 生態観察録

 以下、寒冷地住居型有面生物(仮名称:モフ岡デミタス)の生態及びその文化形態を観察し、記録したものである。

 1,基礎情報
 モフ岡デミタスは、寒冷地を主に居住地とする生物である。体型は個体によってバラバラであり、大きいもので2mほど、小さいものだと30cm程度の大きさである。また、種の特徴として皆同じ顔(のように見えるが、実際は不明な物体である)をしており、体表が黒い毛皮で覆われている。
 個体同士のコミュニケーションは人間の幼児期の会話に近く、意味を有するであろう単語を組み合わせ、お互いの声帯を用いて意思疎通を行う。発声方法が特殊なため我々には真似できないが、身振り手振りであれば彼らと簡単なコミュニケーションを取ることができる。今回の調査では群れの一体と交流を図り、調査へ協力してもらった。

 2,言語
 彼らの言語は少々特殊である。度重なる交流から彼らの発する声に意味があり、それらを組み合わせることで意思疎通をしていることまでは判明したが、我々が使用することは不可能に近い。
 まず、記号化することが困難である。日本人を例に挙げるとすれば、漢字の発音を平仮名に、英語の読み仮名をカタカナにすることで疑似的な発音に持っていくことができる。一方彼らの発する言葉はホーミーに2、3人足したかのような音であり、記号化することが非常に困難だ。さらに、その中のどれか一音が異なるだけで意味も大きく変わるのだという。LとRで苦戦する我々には彼らと言語で交流するのは、夢のまた夢だろう。

 3,彼らの一日
 モフ岡デミタスの朝は早い。
 現地時間で朝4時、彼らは一人として欠けることなく広場に集まり、儀式を行う。個は個であり、全は全であることの確認のために行うのだそうだ。彼らは団体で生活しつつも、個を尊重し、個として動く。一見集団で行動しているように見えても、単に個々の利害が一致しただけであり協力関係はない。故に、行動中一体が急に雪玉で遊び始めても他の行動が止まることもないし、反対にその一体が他の行動を阻害することもない。完全な個の集団である。
 故に、彼らが存在する数だけその一日の行動も異なる。調査に協力してくれた個体は外を眺めることを個の目的としており、今回我々に協力してくれたのも外部を知るためであった(ということが調査を重ねるうちに判明した)。”外部の情報を知る”ことに意欲があるのが我々の言語にも興味を持ち、簡易的ではあるが言葉による交流を行うことができた。完全に言語を把握するのも時間の問題なのかもしれない。
 こうして個は自身の目的のみのために動き、一日を終える。簡略的にまとめたように見えるかもしれないが、事実である。ある個体は建築に一日を費やし、またある個体は食料の確保に一日を費やす。先ほど例に挙げた個体はあの後も雪玉で遊び続け、しれっと儀式のときには戻っていた。
 観察していた者としてこういった結論を出すのは恥ずかしいが、彼らの生態は謎である。

 4,終わりに。
 以上が、我々がモフ岡デミタスを観察した記録である。彼らをより知るには我々が彼らの言語を取得するか、彼らが我々の言語を習得することで為されるだろう。とはいえ、そう簡単な話ではないのだか。
 また、この調査を終えるにあたり、友好の印として持っていたノートパソコンを交流した個体に渡した。言語も文化も異なるので使うことはできないかもしれないが、外の文化を求めていた彼には一番の贈り物なのではないだろうか。
 彼が言語を取得し我々の言葉で文章を発信していたら、世紀の大発見かもしれない。