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角幡唯介さんの「今月の必読書」…『ガリンペイロ』

アマゾンの奥地で一攫千金を夢見る無法者たち

自分が生きている意味や経験を、現実の何かに置き換えることは可能だろうか。山や極地を旅すれば、その間は生きていることを実感できる。でも、その時間は永久にはつづかない。最近では移動や狩りでつながった大地こそ、人間存在の根源的帰属先では? と考えるようになったが、かといって完全に自信があるわけではない。それを探求するのが人生の唯一の仕事だとわかっていながら、ずぼらなので手っ取り早くその答えを知りたいとも思う。

と、そんな折に本書を読み、ふと、ガリンペイロはもしかしたらその答えを知っているのではないか、と思った。その答えとは、ずばり黄金だ。

アマゾン川の支流の、そのまた奥地にある秘密の金鉱山。そこで働く乱暴な無法者たちがガリンペイロである。そこはどんな者も拒まない。ルールは黄金を持ち逃げしないことと場所を明かさないことのみ。ただしそれを破ると地の果てまで追跡され命を奪われる。脛に傷をもつ男たちが閉塞した社会を逃れて作りあげた一種のアジールだ。

無論、現実は甘くない。金鉱山を支配するのは“黄金の悪魔”とよばれるたった一人の王で、掘削した黄金の多くは搾取される。そしてしばしば誰かが誰かに殺される。それでも男たちは一発逆転を信じている。いつかは大きな金塊を掘り当て、ポケットにいれて持ち逃げし、死ぬまで追跡をかわす心づもりなのだ。

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