原田マハさんの「今月の必読書」…『聖母の美術全史』宮下規久朗
彼女がいなければ誕生しなかった名作
昔も今も、世界で最も有名な女性とは誰だろう。
その名をマリア。神の子、イエスを産み育てた「聖母」である。
彼女はひとりの女性には違いないだろうが、とにかく超人的だ。男性を知ることなく妊娠した。聖霊の力によって、神の子が彼女の中に宿った。それだけでもとてつもないのだが、さらに彼女は、アダムとイヴがヘビにそそのかされてリンゴをかじった(つまり罪を犯した)ことによって、すべての人間が生まれながらに背負わされている「原罪」がない存在とされ、さらにさらに、死後は昇天し、天の女王となり、ついにはキリストの花嫁となった。人類史上、何人たりとも成し得なかったことを、ただひとり、彼女が成し遂げたのである。まさにスーパーウーマン。「ノートル・ダム(我らの女性)」と呼ばれて愛され、崇敬される訳である。しかも2000年以上もの長きに渡って。
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