宮部みゆき 「くちきかん」の心 巻頭随筆
私にとって菊池寛は、まず第一に、小学校の国語の教科書で読んだ「入れ札」という短編の作者でした。博徒・国定忠治の逃避行に従(つ)いていく者を選ぶための入れ札で、自分の名前を書いてしまう九郎助という年かさの子分のお話です。人間の心が生み出す卑小と高潔、嘘と真実、正直と欺瞞、偽りがはらむ悲しみをつぶさに描いており、半世紀前の小学校四年生にはかなり重たい小説だったようにも思えますが、だからこそ、一読忘れ得ぬ記憶が刻み込まれたのでしょう。
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