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最新版「宇宙の歩き方」 特集2021年宇宙の旅 林公代

費用や食事、おすすめプランまで——第一人者が語る“夢の旅行”A to Z。/文・林公代 (宇宙ライター)

「想像できる限り最も深遠な体験」

白地に黒い羽の模様の入った機体は、真っ赤な炎を噴射しながら上へ上へ。3分もすると、体重の3倍ほどの重力を感じ、それから突然、ふっと軽くなる。シートベルトを外すや体は宙に浮いてゆく——。

先月13日、またひとり、民間人が宇宙への旅を実現させました。アメリカのSFドラマシリーズ『スター・トレック』で「カーク船長」を演じた俳優のウィリアム・シャトナー氏。90歳の彼は約10分間の飛行を経て、最高齢の宇宙旅行者となりました。作中では2200年代を生きたカーク船長は、2021年にして早くも宇宙旅行に成功してしまったのです。

「黒、醜悪な黒が見える。そして下を見るとそこには青があり、上には黒がある。母なる大地と安らぎがあり、上には……死があるのだろうか。私にはわからない」

高度約106キロメートルから見た地球を、彼はこう表現しました。

「想像できる限り最も深遠な体験を与えてもらった。すべての人が見るべき、体験すべきだ」、とも。

近年、この“深遠な体験”に心惹かれ宇宙を目指す人々が増えています。これまでは超難関試験をパスして厳しい訓練を積み、資格を得たほんの一握りのプロフェッショナルしか到達することのできなかった宇宙空間が、私たち民間人にとっても少しずつ身近になりつつあるのです。

私は宇宙ライターとして20年以上、宇宙飛行士や関係者へのインタビューや、アメリカ、ロシア、日本でのロケット打ち上げの取材などを行ってきましたが、今年は、「宇宙旅行元年」と呼べるほど大きな潮目の変化を感じる1年でした。

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(画像はイメージです)

「旅行」に耐えうる安全性

今回、シャトナー氏が搭乗した宇宙船「ニューシェパード」は、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏が2000年に設立した「ブルー・オリジン」によるもの。彼自身も、今年7月に弟ほか2名とともに宇宙へ行ったばかりです。

同じくアメリカの「ヴァージン・ギャラクティック」でも、創業者のリチャード・ブランソン氏がベゾス氏より10日ほど早く宇宙旅行に成功しています。

過熱する“宇宙旅行ブーム”の裏にはいったい何があるのでしょう。

第一に、アメリカで宇宙開発が「官から民へ」転じられたという背景があります。

現在、宇宙旅行ビジネスにおいて数社がしのぎを削るアメリカでは、1960年代から2010年頃まで、政府主導のもと宇宙開発が進められてきました。人類初の有人月面着陸「アポロ計画」や有人打ち上げ機「スペースシャトル計画」など、さまざまな試みに巨額の費用と労力が投じられています。

一方でオバマ政権後は、宇宙産業の育成を強化し始めます。国際宇宙ステーション(ISS)への物資や人を輸送する宇宙船の開発は民間に任せ、政府はよりリスクが高く、成果が出るまでに時間のかかる月や火星への進出を目指す分業体制をとり始めました。民間に任せて競争させることで、開発のコストダウンとスピードアップを図ることにしたのです。

テスラの創業者イーロン・マスク氏による宇宙ベンチャー「スペースⅩ」は、創業およそ20年ながら、同社の宇宙船「クルードラゴン」にアメリカや日本、欧州の宇宙飛行士を乗せ、地球とISSを往復するまでになっています。これまでスペースシャトルは政府や国家機関の宇宙飛行士しか運べなかったことを考えると、驚くべき革新。各国の宇宙飛行士をISSへ運ぶフライトを政府に買い取ってもらい、民間の旅行客も乗せるという両輪のビジネスが成り立つようになったのです。

ブームの理由のもう一つには、これまで培われてきた技術の結実があるのではないでしょうか。

宇宙への往来が「旅行」として成立するためには、何よりも高い安全性と信頼性が必要です。宇宙飛行士は命を懸けて宇宙を目指しますが、一旅行者が命を懸けねばならないとなると、それは旅行とは言えません。もっとも、現時点ではみなインフォームド・コンセント、つまり、有事の自己責任を確認したうえで宇宙船に乗り込んではいるものの、これから宇宙旅行をより身近なものとするためには、「命の保証はできない」と言っている場合ではない。

たとえばブルー・オリジンは、2015年から15回の無人飛行に成功したうえで、今年はじめて有人飛行に踏み切りましたし、ヴァージン・ギャラクティックにしても、14年の死傷事故を乗り越え、18年に有人飛行に成功してからブランソン氏が飛ぶまでに、3回の有人飛行を行っています。

飛行実験を繰り返し、「旅行」に耐えうる安全性にまで近づいた現状のうえに、昨今の宇宙旅行ブームが成り立っているのです。

宇宙の歩き方①

2度の有人飛行に成功したブルーオリジン

宇宙へ行きたい!と思ったら

国内に目を転じてみると、ZOZOの創業者である前澤友作氏が、2023年の月周回旅行に先駆け、今年12月にISSに約12日間滞在することが発表されています。

では、実際に私たちが「宇宙へ行きたい!」と思ったときにどうすればいいのか。ここからは“実践編”としてガイドしていきます。

まずは地上での旅行と同じように目的地を決めましょう。宇宙旅行とひと口に言っても、高度によって数種類の飛行があり、行き先や体験できることが異なります。ここでは、注目の2つをご紹介します。

ひとつが、航空機が飛ぶ高度1万メートルをはるかに超えた高度80~100キロメートル、「宇宙への入り口」を目指すサブオービタル飛行(弾道飛行)。飛行時間は約10~90分で、そのうち無重力を体験できるのは5分ほど。窓からは薄い大気の層や弧を描く青い地球を見下ろし、宇宙空間に目を転じれば、大気がないために瞬かない星々の放つ鋭い輝きに目を奪われる。短時間ながら宇宙旅行のエッセンスが詰まったプランと言えるでしょう。

この旅行を実施しているのは2社。シャトナー氏やベゾス氏が利用したブルー・オリジンのツアーでは、飛行の2日前にテキサスへ行き、翌日に訓練を受けて当日に備えるスケジュールが組まれています。

価格は正式には公表されていませんが、20万~30万ドル(約3390万円)と言われていて、飛行は基本的に自動運転で行われるため搭乗者は操縦の必要がなく、パイロットが同乗しないのも特徴です。

ヴァージン・ギャラクティックは対照的で、事前にニューメキシコにある宇宙港「スペースポートアメリカ」で3日間の訓練と健康診断を受けたのち、パイロットとともに宇宙へ旅立ちます。価格は約45万ドル(約5085万円)。飛行時間は約90分で、滑走路から飛行機のように水平に離着陸するのが特徴です。上昇するに従い変化していく大気層の色合いや地球の眺めをじっくりと堪能することができます。

どちらの会社を選ぶにしても、サブオービタル飛行であれば、だいたい1週間ほど予定を空ければ行けますし、価格帯を考えても、現時点では私たち一般人に最も身近な宇宙旅行と言えそうです。

日本から申し込むのであれば、「クラブツーリズム・スペースツアーズ」が唯一の公式代理店。ヴァージン・ギャラクティックと契約していて、同社の「スペースシップ2」に乗り込み宇宙へ向かいます。申し込みの際に前払い金を払うことになっていますが、現在は一時的に新規の受付をストップしています。

昨年までで世界中からすでに約600名が支払いをし、正式な申し込みを済ませた人気のツアー。日本人だけで構成されるフライトも計画中で、今後の受付再開に向けて目が離せません。

宇宙の歩き方②

2023年に月へ向かう前澤氏

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