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ナッパ服を着た父 星野博美
著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、星野博美さん(ノンフィクション作家)です。
私の父は東京の下町、戸越銀座で町工場を営んでいた。昭和二(一九二七)年に祖父が興した工場の二代目である。五反田で生まれてじきに戸越銀座へ移り、戦時中に五年間埼玉へ疎開した以外は、この地から離れたことがない。
工場は自宅の敷地内にあり、工員さんも風呂と三度の食事をわが家でとった。通勤時間は、勝手口から出て工場のドアを開けるまでの数秒。工員さんたちは定時で仕事を上がったが、常に納期の迫った「社長」はそうはいかない。私たちと一緒に遅い夕食を済ませると、ねずみ色の「ナッパ服」を着たまま工場へ戻り、夜遅くまで機械に向かった。まさに、働く父の背中を見て育った、と言える。
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