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メロンの味 感想文



BL漫画界で話題になっていたのでいつか読もうと思っていた作品。
絵津鼓先生の「メロンの味」
読んだ時期の今の感情がこの作品に少し当てられてしまったのでnoteに書かずにはいられないと思って書き起こしている。

※心の病気に触れるセンシティブな内容です。人によっては不快に思う内容かもしれません。
※ネタバレ有りです


一言で言えば鬱について描かれた作品。

特に創作者にあたる人は、うつ病になりやすい傾向にある。
もちろん全く該当しない人もいる。
ただ、感受性が強いから作品に還元されるし、吐き出しの場でもあるし、作品に逆に強く影響を与えられる場合もある。
クリエイターやアーティストってそういうことと避けられない因果関係が少なからずあると思う。だからこそ人の心を打つ作品ができる。これは凡人でも想像できる因果な気がします。
なので漫画家もうつ病になりやすい人が多い気がするのだがこのメロンの味の作者絵津鼓先生も経験おありかな。作者コメ巻尾にそれを感じさせるようなことを書いてある。

作品は心の病についてかなりリアルに描かれてる。
鬱っぽくなった事がある人には共感を得られる作品になると思う。

生きてたら人間辛いも悲しいも苦しいも目一杯味わうことになるのかなって思う。
この作品は自分が辛い時ちょっと鬱になりかけてた時期の自分を鑑みる作品だった。

私はこの作品を読む前あらすじすら何も知らずに読んだが、読了した後は泣いていた。
木内くんの描写が本当にリアルで鬱っぽくなってる時の辛さが思い起こされて泣かずにはいられなかった。
特に最後の木内くんがベッドで夜、ナカジョーくんに「本当はね・・・」って告白するシーンが辛すぎて今これを打ちながら思い出しても泣きそうになる。
この作品は鬱っぽい自分を第三者からの目線で見ているようでそんな自分を慰めたくなる作品だ。

メロンの味では終始ジェットコースターのようなドラマがあるわけではなく、うつ病の木内くんと親からゲイであることをうけいれられないナカジョーくんが出会い親交を深めていく過程が淡々と描かれていく。「淡々と」と言ったが話があっさりしているわけではなくそれが日常として現実的で話数を重ねるごとにそのリアルさで感情移入をし深く心に沁みわたっていく。
鬱っぽくなっている時は心が疲弊し切っていて心の体力がないので感情の起伏が薄れる傾向にある。躁うつ病で感情がジェットコースターって人もいるけど慢性的に鬱な気持ちになっている時はこんな感じ。だから「淡々と」した感じになりやすい。

思えば1話を思い出しても木内くんが実はそういう事だからっていうサインが出てる。
例えば涙脆いとか。シャワー中の無表情のシーンとか。木内くんのよくする咳についてとか。
この作品は木内くんに心の病があるという事は終盤にわかるのだが最初からうつ病の人の症状みたいなのが最初から所々描写されている。
ぱっと見他人から見たらそのサインは見逃しがちで分からないのだが、木内くんがうつ病と知ったあとに読むと感づくようなサインだ。
木内くんは朗らかで軽い感じの性格に見えるが、うつ病の人は平然と生きているように他人からは映るからこの人が実は病んでいるとなかなか気付かれない。
これは厄介な病気だ。
日常はなんとか送れてるから中には自分自身でも気付かない場合がある。
名前や病状は世間に認知されているけど実際に、職場に、知人友人にいたとしても気付かなかったり理解されない事がなかなかにある。
「うつ病の人」と見るのと「普通の健康な人」と見るのではその人の評価が俄然変わってくる。

物語の始まりはナカジョーくんがバイト先で客としてきてた木内くんが同棲してた彼女と別れて住むところがなくなったのでナカジョーくんに居候させてほしいとお願いしたところから始まる。

・1話木内くんのシャワーシーン、1pにわたるセリフもない描写。
木内くんはどんな事を思っていたのだろうか。
私はお風呂って1日だったり今までの嫌な事が急に思い起こされてしまうのだけども木内くんももしかしたら元カノとのことや更には人生の嫌な局面を思い起こしてたのかもしれない。

・木内くんの咳について触れる。
木内くんの咳は身体的なものからじゃなく心の問題から来るのが作品を読み進むにつれ分かってくる。
前に付き合ってた私の元彼がチック症を患ってて何か心に負荷がかかると咳払いをする人だった。私も、咳ではないけど心の調子が悪い時第一声が出ないのは今だにある。仕事中に主になるからだるいね。電話対応とかがよく声が出なく掠れてるからそれにたまにイラついてる。もう何年もそれだから気にしてないし他人に相談した事もない。
多分大人になったら皆それぞれ、ストレスがかかるとこういうクセが出るってよくある話じゃないかな。それの出方は人それぞれだけど。

・木内くんの涙脆さ。
もしかしたら元々そういう性格なのかもってあるかもしれないけど、それにしたってよく泣いている木内くん。鬱っぽい時って些細なことで泣いてしまう。
感情を表に出して顔を歪ませて泣くというより涙が勝手にポロポロ出てくる感じ。
感情コントロールができないんだよね。感情を抑制する部分が壊れてるから。

・人の体温がないと寝れない
睡眠障害の一種かな。これに関しては私は悩まされたことが幸いにもないから何も言及できない。
でもその後のなかなか起きない・起きれないはあるあるだなって思う。

そしてナカジョーくんもナカジョーくんで色々ある。
ゲイを理解できない親。
彼氏から自分を大事にされない。
そのせいかな、ナカジョーくんは家族というものに憧れがある台詞を話の節々に入れている。
子供がもしいたらと想像しながら発する台詞。
そんなナカジョーくんの子供になりたがる木内くん。どこか愛情に飢えてる二人。

ナカジョーくんに自分の名前がきっかけで音楽をやっていた話から自分が音楽について不能になってしまったことを話し出すシーン。
10年以上、何も生み出せないミュージシャン。
ナカジョーくんはそんな木内くんを「そうか この人は やりたいことが 出来なくなった人なのか」
短い人生の中でクリエイティブな人間が何も生み出せなくなってしまう事、こんな辛いことはない。生きる意味を失ってしまったも同然だ。
思うに、冒頭でも触れたけど何かの創作者って感受性が豊かだから自分の中だけでは処理しきれない悲しみ、切なさ、苦しみ、感動、喜びをそれらを発散させるために何かで表現してるところがあると思うのですが、それを表現できず、誰からも認められないのってその溜まった感情の行き場がないから辛いよねって話。繊細である。

ナカジョーくんの彼氏が唐突に家にきて、気を配って木内くんが外に出るシーン。
木内くんの孤独感、景色がぐるぐると回り出す。少し、パニック障害を思い起こす。

ナカジョーくんは彼氏と話し合いをして別れることにした。
その話し合いの内容を帰ってきた木内くんに話す。
「恋人とか・・・親とか なんで俺は 普通に愛されたい相手ばっかり こんな風になるんだろ・・・」
木内くんはゆっくりナカジョーくんにキスをする。
「ナカジョーくん ちょっと裸になって 一緒に寝てみる?」
人肌で人は癒されることを知っている木内くんだから彼なりの思いやりだったのでしょうか。

金はあるけど無職であるために家が借りれない木内くん。
ホテル暮らしも考えたけどさらっとああいうところにいると「ちょっと飛び降りたくなるから」
ホテルではよく自殺発生するし窓が完全に開かないようになってるけど、なんでホテルってあんなに孤独感を感じるんでしょうね。一人でいるのは家にいる時も同じなのに、社会からシャットアウトされた気になる。

ナカジョーくん、バイト先で最近木内さんが家を借りれないせいか雨の日みたいに寝てる日が多いと話す。木内さんを知る人に「木内さんて元々身体が強くないんですか?」と聞く。「そう、だな」と含みのある返事だけもらって木内くんの場面へ。

一人真っ暗な部屋で咳をしながら涙を流す木内くん。
私はこのシーンでもやられてしまって・・・。
なんか辛い時そういえば私も地面に座ってベッドに上半身伏せながら泣いてたわあ・・って感情移入した。
なんかね、ただただ辛い、っていう感情しかない時あんのよ。
静かに泣くんよそういう時って。一人で。

ナカジョーくんの親が離婚することになりそれを機にナカジョーくんは援助を受けていた今の部屋を出て自立することを決める。
ある雨の日、木内くんは例のごとく身体がだるくベッドに伏せている。
その横でナカジョーくんは部屋の整理を始める。
そこで木内くんの元カノから送られてきた段ボールに「CD、薬」って書かれているの見てしまってドキっとする。思わず中身を見てしまったら大量の抗うつ剤をついに発見してしまう。
ここで木内くんの、状況的にも、行動的にも納得する心の病がナカジョーくんに決定的に知られてしまう。

いつか行こうと言っていた旅行を決行する二人。
新幹線の車内で、一人暮らしの不安を吐露する木内くん。「・・・彼女つくれば?」ってナカジョーくん。
なんで元カノと別れたの?と会話の流れで聞くナカジョーくん。
木内くんは答えず話を流す。
この二人はまだ曖昧な関係を保っている。
こういう自分達の心の中に何かしらモヤっているものを持つ二人はなかなか軽率に付き合うことはできないね。自分自身に問題や不安要素があると一歩踏み出した人との関係に責任や自信が持てるか「分からない」ってなると思うからこその、この二人のリアル。

飲み物が欲しくなった木内くんは途中停止駅に降りて自販機で飲み物を買いに行く。なぜか駅で立ちすくんで新幹線に乗ってこなかった。そのまま新幹線は発車してしまう。
あとから合流できた二人は駅のホームに座りながら話す。
人がたくさん乗ってると思ったら新幹線に乗れなくなったという木内くんにナカジョーくんは「・・・病気のせいですか?」と聞く。
この質問をするコマ割りも背中からのカメラワークもなんか心に残るシーンでいいなあって思う。
「・・・なんだ 知ってたか」って。
あーなんかこの返事もリアルだよなー。
顔を手で覆いながら
「治したいんだけどね・・・」
思わず木内くんを覆い被さるように抱きしめるナカジョーくん。

この一連のシーンは大きく1p3コマで大きく割って描かれているのですが、絵津鼓先生のコマ割りとカメラワークの上手さでこの二人の感情がより伝わってきて漫画家として人の感情表現うまいなあって思った。

このナカジョーくんの抱擁シーンは胸にグッとくるものがある。
人間が辛いと吐き出した感情を抱きしめてあげる。
木内くんの病気の辛さもダイレクトに伝わってくるし、本当に気にかけている人にそう告白されているような気持ちに感じる。そして読者も身体が勝手に木内くんを抱きしめていると思う。心の中で。

帰りの新幹線でナカジョーくんは家族を持つことを叶えたら嬉しいという。
「ナカジョーくんは 愛情をそそぎたいんだね」と木内くん。
ナカジョーくん思わずグッとなる。
逆に木内くんの望みは何かと問う。

「俺の夢は ちゃんと諦めること」
はあ辛い。
そうだね、そうだよね。それに何も言えなかったナカジョーくん。

このナカジョーくんの何も言えないってうつ病の人には大事なポイントで、難しいんだけど余計なことを言わないってことが正しかったりする。
見守って、支えるがいいんだよねきっと。

旅行から帰ってきて相変わらずな日常に戻る二人。
相変わらず木内くんは鬱っぽい症状出てるしただ周りは緩やかに変化する。
二人暮らしの終わりもそろそろ見えてきたそんな夜の日、二人は暗い部屋でベッドの中で話す。

「早く一緒に寝れる人ができたらいいね」
「・・・・俺は中城くんがいい」
それに対し中城くんは自分は木内さんが辛そうにしてても何も言えないし何もしてあげられないという。
ここで木内くんが中城くんにポツリポツリと告白する。
このシーンがこの作品の中で最も感動して、泣いてしまった。

「・・・あのね・・・ずっと言わないでいようと思ってたけど
俺ね 本当は
本当は死んじゃいたいんだ」

本当は死にたいと思ってるとかじゃなくて「本当は 死んじゃいたいんだ」
涙を滲ませながらこう言う木内くんが本当にいつもいつも死にたいと、生きてる事がずっと辛いと木内くんが感じてることを思って涙が出てくる。

「生きていくために生きられない」
人生はただ、生きるだけでいいのに、もう心が通常でいられないから生きてるだけでしんどい。生き辛い。生きてる意味がないし、見出せない。生きる意味なんか見つけなくてもいいはずなのに、意味がないと辛い。

「・・・だけどその気持ちを 救おうとしないでいてくれたのがありがたかった
大げさな励ましをしないでいてくれて
何も言わず一緒にいてくれて
どうしようもなく癒された」
文面打ってるだけで涙ポロポロ出る。
なんかもう鼻水まで出てきた。鼻かゆい。
この漫画の感動の最骨頂なシーンでした。
木内くんからナカジョーくんに送る言葉は深く心に沁み渡った。


BL作品はただのボーイズラブではなく、
アダルトな表現がありきのせいなのか性別とか恋愛対象の多様性があるからなのか物語が一筋縄ではない色んな人間模様やストーリーを描くし、深い作品が数多くある。

この作品もうつ病ないし心の病について描かれているのだけど、
私こういう作品は自分の辛く苦しい時期を思い起こして刺さりまくります。
今思えばそういう時期があったから色んな感情を精一杯感じて人生に深みが出たかもしれないって思えるけど、うつ病は辛い。その時は本当に辛いし、なんだったらもしかしたら死ぬまでを通して大きい波があるだけで完治はしないのかもとも思える。
でもこういう作品を読まさせていただくと、人生の悲しみ苦しみ辛みを物語やその中の登場人物を通して感動に変えさせてくれるからいいよねって思える。

こんな素晴らしい作品を生み出してくれて出会えて嬉しい。
絵津鼓先生に感謝を。ありがとうございます。

感動しすぎて思わず長文note書いちゃったぜ。

























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