河下水希センセーの『いちご100%(全19巻)』について

というわけで、今回は、漫画作品について載せる。



一番の見所

侮るなかれ、この作品の一番の見所は「通行人」にある。……と、数年前までは本気でそう思っていた。

今は、「人の心のすれ違い」にあると考えている。これを描くのが上手な作者様である。
だから、今になってまた読み返している。

「その日観た映画は。すごくつまらないスパイ物の恋愛映画だったが。主人公の上司の恋人の父親の『すれ違った想いこそが愛を目覚めさせる』というセリフだけが。心に響いた」

第2巻・80ページ目にあったこのセリフが、妙に心に響いた。


あとなんか話の繋げ方が抜群に上手い。




「すれ違い」こそ、この作品の真のテーマだろう。実際、そんな場面が多数ある。そして、ひとつのコマにそれぞれの心情が載っていると、「え?そう来る?」のような、なんというのか「認識のズレから来る場面展開」へと続く。

男女の仲に限らず、人は、些細なすれ違いをきっかけに喧嘩をすることがある。
「喧嘩するほど仲がいい」という言葉があるが、これは心からそう思える。その理由は、「喧嘩とは、話の通る間柄でなければできない」が念頭にあるためだ。

優しさとは甘さであって、本当の愛ではない。

突き放されることで得られるものもあるし、そもそも「突き放される」とは「自らを試されること」でもある。
それが分かっていなかった奴には、人の愛を受ける資格はなかったのだろう。だから、劇中においても、付き合って別れて、振って振られて、という人間関係の変化が数多く見られるし、この主人公も出会いと別れを繰り返しながら成長している。



しかし、当時から本当に解せない話がある。
「こんだけ男前要素のある淳平がモテへんわけないやん」としか思えずにいるのである。

  • 可もなく不可もなく

  • センスがある

  • (補欠合格とはいえ、努力の末に)進学校へ入学して、しかもやりたかった部活をしている

  • 行動力がある

  • ひたすら真面目

  • 人の心には真摯に向き合う

  • 義理を大切にする

  • 人助けをする

  • 歌が上手い

  • 自己主張すべき場面では臆面もなく物を言える

  • ほとんど言い訳をしない

……。


惚れてまうやろ(超絶大音量)


西野つかさちゃんが淳平からの愛の告白に応えた真の理由は必見である。その回想シーンの淳平は立派やった。








そうした主人公特権あってのことかもしれないが、彼は非常に魅力的に映る。

人は顔だけとちゃうんや。
心意気が立派でないとな。

丸々1ページを使って淳平を超イケメン化したシーンが、劇中にたった1ヶ所だけある。これは、色々と面白かった。もうこうなったら最強やろよと思いつつ、「一番惚れた人は誰しもそんな風に映るんやろなあ」とも思わされた。

それを「現実を見ていない」とするか「実際にそうなる可能性を秘めている」とするか、その解釈は各々に委ねられるが。

確か、2010年代に入って続編も作られたんやったか。買おうかな。





第19巻・最終話『選んだ未来《シナリオ》』での不可解な点

“彼女”と別れて数年後、最後のシーンに、どっちから会う約束を取りつけたのかだけは、今作最大級の謎である。未だに謎や。
結局あれは、どっちからやってんやろう。それも含めて「読み手が解釈せえ」という物語性なのだろうか。私は、「俺達の関係、白紙に戻せないかな」と言い切っていた手前、淳平からではないと思ってはいるが。

ただ、そうなってくると、“彼女”からコンタクトを取ったことになるが、ラストシーンは明らかに、「あそこで待っている“彼女”の元へ彼から会いに行ったシーン」であって、「偶然の再会」ではない。サブタイトルの「選んだ未来《シナリオ》」とは、本当に上手く練られたものである。

第19巻のあとがきに、物語の結末をどう締めくくるかについて、迷いを重ねた連載当時の様子が事細かに、結構長く綴られている。物語を紡いだことのある人なら、ある程度は共感を示せる部分もあるのではないかな。特に、作品の設定資料集が好きな人には刺さると思う。

すれ違い、売り言葉に買い言葉、言葉とは裏腹の態度、愛の駆け引き、苦悩の日々、そして特定の人物に対するときめき。それらを考慮した上で悩んだ末に出した最終結論。

いやあ、河下水希センセーすごいよ。
どんな人生経験を積めば、心情をそんなに事細かに描写できるようになるんですかね?







とても魅了される話なので、読んだことがなければぜひ。
タイトル自体が、そもそも「それ自体」を表している。最終的に何を選んだのかを。



この作品の対極にあるのは、『男塾』ではないかな()
六尺褌はいいぞ。


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