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LIBRARIAN|維月 楓の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、維月楓の小部屋。詩人・研究者・翻訳家。古今東西の女性/クィア詩人の作品を読み解くことを通して、新たな生の軌跡に敬愛を捧げている。
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2021年6月の記事一覧

維月 楓 & Du Vert au Violet|架空のアブサン酒《ULSTER》

TextKIRI to RIBBON  名探偵たちが去ったモーヴ街に、暗躍する菫色の影がふたつ——ひとつは、男装の麗人アイリーン・アドラーの影。  ホームズたちを翻弄し、鮮烈な印象を残して去ったTHE WOMANの華麗なる足跡を「架空のアブサン酒」に封印してお届け致します。 *  夜のベイカー街、男装したアイリーン・アドラーがホームズたちに声をかける「ボヘミアの醜聞」の印象的なシーンへ、維月 楓さまの翻訳と霧とリボンのポプリでオマージュを捧げます。  薔薇菫色のリボ

KAEDE|アイリーン・アドラーと変幻する女性たち――アイリーン、お勢、モリアーティとして――

TextKaede Itsuki Art Work|Fumiko Saburi  どうして人は「宿命の女」に魅了されるのか。ほっそりと締め上げたコルセットと美しく重なり合うレースのひだの下に隠れ、彼女の胸が自由に羽ばたいているのを感じるからだろうか。シャーロック・ホームズシリーズ「ボヘミアの醜聞」(1891)は、女性という性全体を圧倒するほどの美しさと知性を誇るアイリーン・アドラーなる人物が登場する。彼女の物語に特徴的なのは、常人より何千歩も先を行くホームズが唯一敗れた女性