見出し画像

最高の夜明けの少し前

W杯アジア1位、48年ぶりのパリ五輪自力出場権獲得

日本中が熱狂したあのW杯まで共に歩んだ記録。

この夏は本当に苦しかった、そしてとっても幸せだった。何を言ってるんだろう、でも本当のことだった。

『このW杯、パリに行けなければ引退する』

チームの要である渡邊雄太は突如宣言した。どこにも逃げられない、もう撤回できないそんな場所で放ったこの一言にファンのざわめきは止まらなかった。とはいえ私をはじめファンは薄々気がついていた、長年日本代表を牽引してきたメンバーが口々に結果が出なければ、、と言葉を並べ、ただならぬ覚悟でこの大会に挑んでいることに。そこにはうっすらと代表引退の文字がチラついていることに。

以前のインタビューではこう言った、本当は東京で終わりにすることを悩んだ、それでも世界の舞台で一勝もしてないまま終われない。負けず嫌いな彼らしい言葉だった。この言葉が出た時からいつかくる終わりの日に怯えながら限りある今を全力で応援したいと思った。この夏は最後の夏になるかもしれないそんな気持ちで私も彼を追いかけた。


『目標はアジア1位、自力で五輪出場権を得ること』

しかし名だたる強豪揃いのいわゆる死の組にいる日本にとって簡単な道ではない。

そしてその舞台に立てるのはたったの12人、ロスターに入らなければその"最後"も迎えられない。世界と戦う舞台に立つためにはチームメイトとしのぎを削り、自らメンバー枠を勝ち取らなければならなかった。

最年長でいじられ役、そんな肩書きをもつ。彼は長年日本代表のエースだった、いて当たり前の存在、当落線上なんてあり得ない選手だった。でもこの夏は自ら崖っぷちだと何度も口にした。本当に追い込まれているように見えた。

『明日切られるというメンタリティで臨んでいる』

常にそんなような言葉を口にしていた。

7月頭のチャイニーズタイペイとの強化試合、代表招集初めてのメンバーや若手が大活躍だった。こう言ってはあれだけど、同じポジションの選手の活躍は非常に複雑だった。本人もこの頃はまだ自分の役割に迷いがあったとその後に明かしているくらいだが、スカッとプレイしているところをあまり見られなかった。この頃からネットでは本戦メンバー予想が白熱し、不要論なども散見されるようになった。指揮官のインタビューやメディア取材の有無、全てにアンテナを張り一言一言に一喜一憂した。

次の強化試合は国外で韓国とだった、要所要所での活躍が光るも同じポジションの選手と比べて特段プレイタイムがもらえてるわけでもなく、、、ただとても苦しい時にスコアしてくれる頼もしさはいつもの比江島慎の姿だった。
この時期はどの組み合わせで出すか色々試していた、特に3枚目のPGのところ。コンボガードとしての起用が多く自分の役割を探っているようにも見えた。それでも2戦目(白ユニ)、ではスリーを決めてチームを救った。さらに合宿に入ってからスリーのタッチに苦しんでいた仲間へのアシストもすごく印象的だった。メンバー選考のサバイバル、常にアピールしなければいけないそんな極限状態でも常に役割を考え冷静にプレーしていた。仲間を生かすところも比江島慎の武器だ、言葉ではなくプレーで引っ張る、誰よりも熱くて優しいプレーヤー。私はそんなところが好きだ。
試合後は決まってネット記事を読み漁った。後輩たちが上げてくれるインスタのストーリーに癒されつつも、なかなかメディアから名前が上がらない日々にヤキモキした。それでも総じて40%超えで決めるスリーポイントのスタッツを何度も見て、うちのエースすごいんだっていいきかせた。得点シーンのリプレイだって何度も何度も見た。

日本に帰って迎えた太田大会。勝利したゲーム1では4選手が2桁得点をあげた。そこに彼の名前はなかった、プレータイムは12分にとどまった。同ポジションの選手の活躍を喜べない自分がいた。もっとやれるのに、もっとやらせてよって何回も思った。
そして迎えたゲーム2、白ユニ。相手は前回の敗戦に奮起するニュージーランド代表に苦戦し、最終的に20点差をつけられ敗戦した。この日チームハイの12点を叩き出したのは比江島慎だった。フィジカルにきた相手にもプルアップでスリーを決め、ドライブからも得点した。現地で見ていた私は久しぶりに生き生きとプレイする姿を見た気がして胸がいっぱいになった。ファンから見ても少し迷いがなくなった気がした。 
その日の会見、どんな言葉が飛び出すだろうと楽しみに開いた。感触は悪くない、自分らしいプレーができたと語りつつ反省もたくさん、少しだけほんの少しだけいつもより明るい表情に見えて安心した。
指揮官からもマコのバスケットが良かったとの言葉が出た、私にとってもすごく嬉しい言葉だった。それでもまだまだ打てるとこで打ってなかったから打ってほしい、そんなトムさんの愛あるツッコミも炸裂した。笑いながらも浮かべる複雑な表情を見て、心がギュッとなった。活躍した日にも、明日切られるメンタリティでやっている、もっとアピールしていきたいと語った。こんなに活躍してもまだ崖っぷちなんだ、今回のサバイバルの熾烈さを物語っていた。応援するしかないけれど、信じるしかないけれど、ファンの私でさえも不安な毎日だった。

本番約2週間前、強化試合東京大会を前にロスター12名が決まった。そこに名前があったことに歓喜した。まずW杯の舞台へ立てることが本当に嬉しかった。夢である世界で一勝を見届けられる、応援できるから。W杯という舞台でどんな景色を見せてくれるのか想像したら楽しみで仕方なかった。

そして最後の強化試合。
ここからの試合は本番を想定したものになるだろう、胸を高鳴らせて会場に向かったアンゴラ戦。シュートアテンプトをいつもより意識しているように見えたが、ターンオーバーも重なり得点できずベンチに下がった。前半のプレイタイムは7分、そして後半彼がコートに立つことはなかった。なかなか名前を呼ばれずベンチでひたすら出番を待つ姿はなんとも言えない光景だった。ボッーとしてたら試合が終わっていた。
試合後のハドルで明らかに元気がないように見えた、励ますかのように手を差し伸べる渡邊雄太の姿に感謝を唱えながら私は泣きそうになった。あの日のコート一周の時の表情は忘れられない。私も心底落ち込んで帰った、せっかく選ばれたのにプレイさせてもらえないなんて思ってもいなかった。もちろん他選手の調子が良かったのもある。でもまだ足りないのか、出ればなにかやってくれるもん、信頼してようちのエースを。出してくれなきゃ見せられないじゃん、本当に悔しかった。


『20分出れば20点取る期待をしていい』

隣で共に戦う佐々さんからのこと言葉に大きく頷く姿に安堵した。

有明大会ゲーム2、フランス戦(白ユニ)。セカンドユニットで出てきてすぐのスリーを沈めた。よしいける、一本目入ったら乗ってくる。その確信の通り活躍した。15分で13点、シュートも好調、停滞する時間に点をとってくれる。いつもの比江島慎だった。それでも15分、もう少し出してくれたっていいのに。もっと点取るのに、そんなふうに思ってしまう。まだまだ何か足りないのかな、それともまだ何かを試しているのか、メンバーが決まっても増えないプレータイムに不安が募った。それでもこの試合の後、佐々さんと2人でのインタビューで佐々さんが、"出れば出ただけ点をとらしいっす"というと隣で大きく頷いた。少し自信が見えた表情は、合宿の最初の頃とは違っているように見えた。ちょっぴり安心した。

有明大会ゲーム3、ルカドンチッチ率いるスロベニア戦。泣いても笑っても最後の強化試合、前半こそ喰らいつく場面があったものの守りきれず攻められ敗戦した。この日は15分のうちで5本のスリーを放つも決め切ることができずに5点スコアしたのみにとどまった。あいたら打つ、普段なら打たないであろう間合いでも打つ姿があった。もっと打って、自分では打ってるつもりなのにそんな太田大会でのやりとりを思い出して泣きそうになりながら応援した。外野がなんと言おうがどうでもいい。この短期間でもこんなに進化しようともがいてる姿を見せてくれる。この人のこと応援するしかない、絶対にやってくれる人だから大丈夫。なぜかそんなふうに思った。

この試合の終わりの壮行会、引き締まった顔でファンからのメッセージが入った巨大ユニフォームを眺める姿を見て心の中で大声援を送った。ここからは現地に行けないけれどあなたの勇姿を最後まで見届けます。ゆずのビューティフルが流れる中少し泣きそうになりながらそっとエールを送った。そして生で見る最後の代表ユニかもしれないと思い、目に焼き付けた。

そして全ての強化試合が終わった。


『マコはスリーも入るし、ディフェンスも悪くない、経験もあるからもう少しプレータイムを延ばすと思う。』

スロベニア戦が終わり、会見で指揮官が放ったその言葉に飛び上がって喜んだのを今でも覚えている。世界で一勝をどうしても達成して欲しい、でもそこで活躍するのは比江島慎であって欲しい絶対に。悔いがないようにやって欲しい、その想いだけだった。応援することしかできないけれど、少しでも背中押せたら嬉しい、そんな気持ちでW杯に臨んだ。

思えばこの夏、また違った一面を見た気がする。崖っぷちに追い込まれながらも、もがく姿、いろんな表情の日があった、大概は悔しそうだったり、考え込んでたりすることが多かった。それでも自分自身に真摯に向き合うところはいつも通り。いつも真っ直ぐ、どこまでもすごい人なんだ、私の推し。がんばれがんばれ、もうそれしか言えないけどがんばれ。私は信じた、比江島慎を、AkatsukiJapanの日の出を。


それでも、この時は想像していなかった、あんなにも最高の夜明けがくるなんて。


2023年の夏は長くて短い、苦しくて楽しい、そんな最高の日々だった。たくさん泣いた特別な夏だった。


また新しい夏が始まる、次はどんな夏になるかな。
私はまた追いかけ続けるんだ白ユニのヒーローを、白ユニの時はいつだって最強なんだ。そして見届けるんだ、彼の集大成を。

どんな結末でもいい彼の努力と想いが報われますように



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?