Robloxとクリエイターエコノミー

先週「映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~」を読んで、その後なんとなく「若者論」に関する本を何冊か読んだ。それらを踏まえて、現代のテクノロジー、ビジネスについて、特にRobloxでのクリエイションについて、自分のなかで見えてきたことがあるのでまとめておこうと思う。

読んだ本は以下。だいたいkindle Unlimitedで読める。

  • 映画を早送りで観る人たち〜ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~

  • Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?~

  • 先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち

  • 世界と私のAtоZ


Robloxがなんかすごい

友達のinstagramに「子供がずっとRobloxで遊んでいる」とたびたびアップされる。Robloxはたぶん4〜5年前くらいから海外のAppStoreの売上ランキングに登場するようになって、気にはなっていたがいまいち楽しみ方がわからないアプリだった。

Robloxはゲームプラットフォームで次世代youtubeと呼ばれているらしい。オンラインゲームプラットフォームで、ものすごい数のゲームが公開されてる。誰でもゲームをつくって公開できるし、ユーザーもそれをすぐにプレイできる。「Roblox Studio」という独自のツールがあって、それを無料で使えて、すごく簡単にゲームをつくって公開できる。DeNAのMobageもオープンのゲームプラットフォームだけど、ゲーム開発やデザインにはそれなりに技術が必要だった。Robloxはそれよりもっともっと手軽になっているのだ。

日本でも去年あたりからRobloxを活用した企業プロモーションが増えた気がする。たとえば以下の通り。

2023/03/09 Honda
「Honda Rewired」

2023/05/11 FANY
「FANY X Lab on Roblox」

2023/09/01 TBS GAMES
「風雲!たけし城」

2023/10/06 タカラトミー
「BAYBLADE PARK」

ぱっと思いつくだけでこんな感じ。普段からゲームで遊ぶ30代としては、Robloxには大味なゲームが多く、あたり判定も曖昧でこれをゲームと呼ぶにはクオリティがちょっと…と思ってしまう。でもすごく盛り上がっている。たとえば…

…数字、すごすぎない?

なので、なぜこんなにRobloxがすごい数字を持っていて、企業がRobloxに注目するのか?をちゃんと考えたい。「なんか注目されていて、子供たちがすごい見てるからRobloxでやってみる」みたいな認識でもいいのかもしれないけど、ちゃんと背景を理解した上で活用することで、アウトプットも変わってくる気がする。

Z世代と自己表現

「発信」の重要性

Robloxの利用者の半数くらいは13歳以下らしい。(参照:https://www.moguravr.com/roblox-q2-financial-results-for-2023/
私の周りでRobloxのことを語る人は少ないので、体感的にそれ以外の半分もきっと大半が学生なのだと思う。

今の学生はZ世代とかα世代。大人たちはいろんなふうに彼らを分析するけど、個人的に大事なのは「スマホネイティブ」であることと「SNSの変化」だと思う。生まれた時からスマホがあっていつでも情報に触れることができ、SNSのありかたが「つながり重視」から「発信重視」へと変化している世代だ。

ゆとり世代に流行ったSNSはmixiなどは「知人とつながり、交流すること」が目的とされていたが、instagramやtiktokは「発信する人を見ること」を目的とする。

Z世代はただ発信するだけでなく、その投稿内容によって自分をブランディングしていくそうだ。身につけるものだけでなく、SNSの投稿もまた自己表現の一部なのである。元Zenlyの創業者たちがリリースした「ID by Amo」は自分のボードをコラージュすることで自己表現しながら友達とつながっていくアプリで、このZ世代の「発信欲求」に向けたサービスなのだと解釈している。

だがこの自己発信は誰もがやりたがるものではなくて、大部分は一部の誰かのフォロワーにとどまる。インフルエンサーマーケティングが主流になってずいぶん経つが、マスメディアなどの従来の広告は「さまざまな情報をパッキングした消費者への提案」であり、商品の値段・価値観・効果など、提案された情報を自分のなかで咀嚼する必要がある。だがインフルエンサーによるおすすめは、「そういった情報を咀嚼したうえでの発信」なので、これまでの発信に共感してきたインフルエンサーのおすすめであれば「おそらく自分にもハマるはず」と、意思決定に至るまでのプロセスが少ない。だから購買に至りやすい。「Off Topic」の記事によれば「クリエイターは信頼関係とライフスタイルを売っている」とあり、この話を裏付けているように思う。これは後述の「クリエイターエコノミー」につながってくる。

デジタル世界での自己表現

Robloxが「Z世代のデジタルな自己表現に関する調査」に基づく分析レポートを公開している。

元となるデータは以下の通り
1.Robloxプラットフォームで収集された行動データ(対象期間:2023年1月1日から9月30日)
2.米国(1,027人)と英国(518人)に住む14歳から26歳までのZ世代ユーザー1,545人に対するアンケート調査(自己申告方式)(対象期間:2023年9月27日から29日)。米国及び英国の国勢調査をもとに、両国の性別・年齢構成比と同じとなるよう割付。

これによると、ファッションアイテムに関して、アバターに着せてからリアルでの購買を検討するという回答が50%を超えており、毎日アバター更新するユーザーが数百万人もいるとのこと。(※ちなみにRobloxのDAUは2023 Q3で7000万人超)

「アバターを着替える」ということが、生活行動の一部になっている人が増えてきており、「アバターでのおしゃれ」が自己表現のひとつとして成立しはじめいるのだ。なんだかメタバースは下火になっているかと思っていたけど、地道に生活に根付きつつあるようだ。ただこれはあくまで欧米のデータであって、Robloxは2022年に日本法人の活動を本格化したばかりだから、これが日本で派生してくるのは2~3年後くらいになると思う。

クリエイターエコノミー

またOff Topicの話になってしまうけど、Off Topicが年末に公開した2023年のテックニュースTOP10の10位と9位は「起業家がクリエイターになった年」と「クリエイターが起業家になった年」だった。

これは「クリエイターエコノミー」がより進んでいる状況なんだと思う。ただコラボ商品をつくったり、名義貸しをすることを超えて、クリエイターの価値観を伴った商品がブランド化していくことを指している。けんすうさんの記事ではHIKAKINの「みそきん」が参考事例としてあがっていて、梨花のAKNIRもこれに含まれるだろう。これまでのブランドは企業が生み出してきたけど、個人クリエイター発のものが増えていて、アメリカではその規模が大きくなっていっているらしい。

出版社である講談社が「講談社クリエイターズラボ」というものを始めている。これは講談社がもっている既存のIPではなく、個人のクリエイターと編集のプロである講談社がつながることで新たなクリエイションをつくりだそうという取り組みである。すでに大量のIPを抱えているはずの出版社が個人クリエイターとその発信に注目しているのだ。

この個人クリエイターの発信手段として、これまでInstagramなどの写真、Youtubeやtiktokなどの動画のなかにRobloxやFortniteなどのゲームが加わってきている。写真や動画は、発信者とのコミュニケーションはできるものの基本的には一方通行な発信だが、ゲームはその中に入って「体験」できることが大きく異なると感じている。その人のつくった世界に入り込めるのだ。

まとめ

いろいろと話が発散してしまったけどまとめ。

  1. Z世代は自分のライフスタイルを発信したい

    1. ただその発信を享受したいだけの人もたしかにいる

  2. デジタル世界での自己表現が若者世代に根付きつつある

  3. 個人クリエイターの経済への影響が大きくなってきている

最初に私が挙げた「なんでこんなにRobloxがすごい数字を持っていて、企業がRobloxに注目するのか?」という問いに関する答えとしては、日本においては「デジタル世界での暮らしが若者に根付きつつあるから」になるだろう。

だが、おそらく「Robloxにコンテンツを発信すること」それ自体の価値は薄れ、いずれ「誰がつくったゲームなのか」「誰がつくったデジタルアイテムなのか」が重要になってくる。だから、もっと企業がRobloxをうまく活用するには、既存のゲーム制作会社と協業するのではなく、個人クリエイターを発掘し、うまく付き合うことが大事になってくると思う。個人クリエイターの「人格」を反映したコンテンツに共感し、購買につながっていく社会が、日本でもできつつあるし、これから加速していくと思う。



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