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鏡男

梅雨が明けたかもしれない。ライムは青空を眺めながらコーヒーを飲んでいた。

何気なくふと全身鏡に目をやると目が全く笑っていない青白い男の顔が写っていた。口元は笑っているのに目がギラギラしていて本当に不気味な男だった。全力でライムを見ている。


ライムはぎょっとし、動けなくなった。勇気を振り絞って後ろを見たが誰もいないのだ。
もう一度鏡を見ると、そこにはさっきの男が写っていた。ライムは急いで110番通報した。

警官にことの有り様を伝えても、何も写ってないじゃないですか。の一点張り。警官には見えないらしい。

ライムは実家の家族や友達を呼んで、鏡を見せた。両親も姉も友達もポカンとするばかり。「ライムは疲れてるのよ。」「ライムなんの冗談?」

これ以上言っても全く信じてもらえそうにない。ライム自身が変人扱いされるだけだ。

ひとまず様子を見ることにした。この気持ち悪い男はライムにだけ見えるのだ。しかも鏡の中にだけ。朝も昼も夜も男は鏡の中で笑っている。強すぎる目力が更に気持ち悪さを増している。

次の日もその次の日も、男は鏡の中にいた。

慣れとは恐ろしいものだ。数日経過するとあまり気にならなくなり、もうこれは自分に取り付いた疫病神と思うことにした。そして1ヵ月が過ぎた。
相変わらず昼夜問わず男は存在している。

そんなある日、、、、ライムは会社で酷い失敗をした。お客からはクレームを入れられ、上司からもこっぴどく叱られ、おまけにその夜、3年間付き合った裕太に振られてしまったのだ。

「他に好きな人が出来たんだ」裕太はサラリと言い放った。

楽しかった頃の思い出が次々に浮かんでくる。そういえば最近の裕太の態度はどこかよそよそしかった。
ふらっと入った居酒屋で涙が止まらなかった。

失意のライムが帰宅すると相変わらず鏡の中には奴がいた。普段はもはや空気のようなヤツだが酒の勢いもあってライムは猛烈にイラついた。

「てめえふざけんじゃねーぞ!なんでそこにいんだよ。ニヤニヤしてんじゃねーよ!なんかしゃべれこら、わしの家にいるんなら役に立つことやれよこら!この役立たず!!」ライムは叫んで寝た。


翌朝、台所から美味しそうな匂いがしてきてライムは起きた。テーブルの上にはホテルの朝食みたいに美味しそうな料理が並んでいる。
1口食べてみると、、ジューシーなウインナがパリッ!フワフワのオムレツ( ´⚰︎` )
最高だぁ〜👍
一体誰が作ったんだろう?
お母さんかな?でもお母さんはこんな料理作んないよなぁ。一体誰?

ま、さ、か、、、、、!!

本当においしい朝食だった。ライムは食器を洗い、化粧をして鏡の中を覗くと相変わらず奴がいた。目は相変わらず笑っていなく、ニヤニヤした気持ち、悪い顔でライムを見ている。
その日以降、毎朝
素晴らしく美味しい朝食が用意されていた。

10日目の朝、ライムはいつもより一時間早起きしてこっそりキッチンを覗いた。
そこは、、、、キラキラの空間だった。いつも最高に気持ち悪い鏡男が楽しそうに、フライパンをクルクルしている。ネギをトントントントン楽しそうに刻んでいる。お味噌汁の味見をしてる!
そして青いエプロンをしている!

ライムはそっとベッドに戻り、いつもと変わらない何食わぬ顔で朝食を食べた。「和食も最高に美味しい。シャケの焼き加減絶妙だわ。」ライムは思わず笑みがこぼれた。  つづく

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