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イザナミのおばあちゃん

雪じゃなくて毎日雨。

ご懐妊おめでとうございます。

その言葉が聞きたくなくて、周囲の人からの言葉なんて受け取りたくなくて、しばらくは妊娠したことは家族や限られた人以外には黙っていた。

既に子育てしている人からの『子育て楽しいよ』も『子育て大変だよ』も聞きたくない。
既にお産を経験した人からの『大丈夫だよ』『痛みなんて子供の顔を見たら忘れるよ』『めっちゃ痛くて苦しくて大変だったよ』ももう沢山だった。

たっつんにはめちゃくちゃに八つ当たりした。

ずーっと涙が止まらなくて最後には全部流れるままにほっとくしかなかった。
感情はフル稼働のくせに思考は全く動かなくて、妊娠しているという事実が怖すぎてずーっと泣いていた。

避妊だってしていたし、2人してビックリの展開だった。
今でもいつお腹の人がやってきたのか分からない(笑)
2人とも子供を授かる予定は無かった。
考えてなかった。

お腹の中に人がいる事実をいきなりがーん!と突きつけられて、その上であれも決めてこれも決めてと求められる。
でも思考は止まったままで先にいかない。

ぽろぽろ。
ぽろぽろ。
どこからこんなに溢れてくるんだろう。
涙が止まらなかった。

涙で水溜まりってほんとに出来るんだなぁ。
床に溜まるしょっぱい水溜まりにどっかでそう思っていた。

お前たち!おどき!

そんなみのりんを目の前にしてイザナギのじいちゃんは『だ、大丈夫じゃよ…』とおろおろしていたし、スサノオのおいちゃんは『な、泣き止めよぅ…』とおろおろしていたし、ツクヨミさんは『…!…!』とやっぱりおろおろしていた。

なんだろう?
やっぱり男性神だから気になってはいても、こういう時にどうしたらいいのかは分からないのかもしれない。(たっつんもそうだった。)

神様もおろおろする?

そんな男ども3人を黙らせて蹴散らした人がいる。

『全くお前たちは…!邪魔よ!今すぐにおどき!』

イザナミのおばあちゃんだ。

ぴゅん!と退散するスサノオのおいちゃんとツクヨミさん、イザナギのおじいちゃんだけは『いや、でもな…』とごにょっとしたけどギッ!!と睨まれてすっと席をはずした。

つ、強い…。

イザナミのおばあちゃんがとんでもない圧を出しながらアマテラスさんに何かを指示して、たぶん誰かを連れてくるように言っていた。
そして、ずいっと私の前に立つ。

多くの神々を産んだ女神。
こんな強い人からいったい私は何を言われるんだろうと怖くなった。

『情けない。』

容赦なくそう言われるかと思って小さくなっていると、何も言わずにただただイザナミのおばあちゃんは私を抱き締めた。

余計な言葉は必要ない。

イザナミのおばあちゃんは多くの神々を産んだけど、最後は火の神にホト(女陰)を焼かれて黄泉の国に行くことになってしまう。
それがイザナギのおじいちゃんとの離縁の要因の1つにもなった。

そんな人がお産の過酷さと数々の女性の想いを知らないはずがない。

神々との会話は想いで行われる。
言葉はなくても想いが直接伝わってくる。
誰の言葉も受け付けない私に言葉をかけることなく想いで抱き締めてくるイザナミのおばあちゃんの前で私は1番泣いた。

私がお産に対して恐怖を感じたり、後ろ向きになった時にイザナミのおばあちゃんはいつでも私を抱き締めたし、私はその度にただただ泣いた。
鼻血も止まらないし、頭はすごーく痛かった。

子育てにもお産にもずっと後ろ向きのまんま、でもお腹の中にいる人を処置することは出来ない。
そんなどうしようもないことを言う私に、実母はイザナミのおばあちゃんが出来ない肉声で私に言った。

『大丈夫。
あなたは幸せになる。』

 きっとイザナミのおばあちゃんが言いたかったことってこれなんだと思った。

全て完璧な流れの中に。

受け入れられない自分のまんま。
みのりんは毎日を過ごすことにした。
その間心は旅に出て、今までずっと手を付けられることがない程深い場所に立ち返って、自然とずっと過去を振り返る。

たっつんは毎日毎日みのりんのお母さんに必要なことを教わりながらサポートしてくれてるし。
お前も片棒を担いだんだからお産をとんでもないくらい軽くするエネルギーワークをするんだー!とみのりんにポカポカされた。
(もちろん了承していた←)

きっとあの会社にいたらこんな穏やかにしていられなかったろうな。
家族とも一緒にいれなかった。
たっつんとも一緒にいれなかった。
1人で…きっともっと荒れていた。

実家に帰ってから妊娠が発覚するっていったいなんなんだ。
どんなタイミングなんだ。

そしてみんなが羨ましがるくらいにみのりんはつわりが全く無かった。
それで1度は母に妊娠を疑われた。(どないやねん)
食べなくても平気食べても平気炊飯器の香りも美味しそうなまんま…本当にお腹に人がいるって忘れるくらい。

それはもう嫌になるくらいに完璧な流れだった。

そして天の邪鬼なみのりんはますますやさぐれたし、ぶすくれた。
こんなの受け入れるくらいしかないじゃないか。
いや、嫌だけど。

嬉しいもなければ楽しいもなく、もう思考も動かないけれど、事実お腹の人に色々と話している。

『はぁ~…今だったら手のひらサイズだから出すのも楽だな。ねぇねぇ、今出てくる気ない?お腹の人~?』
『それは子供が大変でしょ(笑)』

妹とそんな軽口を叩きつつ、1日1回は『お産やだわ~』と呟いて、1日1回は『たっつんはずるい!』と八つ当たりして、イザナミのおばあちゃんに抱卵されるみたいに抱き締められながらみのりんは過ごすことにした。

妹にやさぐれ妊婦とあだ名を付けられながら。
お腹の人をきっかけに私は自分の置き忘れた感情だったり、過去の清算を促されていた。

お腹に入ったことに全く気づかなかったくらいに静かなお腹の人は未だにうんともすんとも言わなかった。

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