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どっちがヘッタクソだよ、バカヤロウ

大切にしてるたった1つ

たつみのりっちが大切にしているたった1つのことがある。
それはいつでもたつみのりっちの基本の基本になっていること。

おチビさん自身の感覚を大切にすること。

この前も言ったようにおチビさんが産まれたこの世界には社会の都合や大人の都合に溢れてしまっている。
幼い頃からそんな自分の他にある都合に合わせて、我慢を覚えて自分自身の声が聞こえなくなってしまった人を職業柄…たっつんとみのりんはたくさん見てきた。

おチビさんが何よりも自分の心の声を聞けるようにたっつんとみのりんは彼の感覚をいつでも大切に受け入れようと思っている。

自分がいて、色んな人の都合があって、その中で補いあって想い合っての世界を選んで生きていってほしいから。

悲しい時におチビさんの瞳には青い空がくすんで鉛色に見えるかもしれない。
青い空の下で『お空が灰色だよ。』と君が言った時に『空は青いでしょ。』じゃなくて君が見ている灰色の空を君を通して見られるようで在りたい。

同じものを見ていても見える景色は違うことを忘れない。

ヘッタクソ!!

初めておチビさんにした後悔…みのりんはおチビさんの感覚を受け取ってあげれなかった。
それは退院して帰って来てすぐの頃、まだ首も据わってなくて、手足も小枝みたいに細いおチビさんに哺乳瓶でミルクをあげようとしてた。

でも、どうしても上手に出来なくて焦ってイライラしてどうせ言われた意味も分かんないだろって思わず叫んだんだ。
『あーもう!ヘッタクソ!!』
その後のおチビさんのただ事じゃないような泣き声と顔はたぶん一生忘れない。

呼吸困難になっちゃうんじゃないかと思うくらいの大声で、身体中がどす黒く見えるくらいに真っ赤になって、手足は小刻みに震えるほどに声を張り上げた。

意味が分からないかもしれないけど、伝わったんだ。
一気に頭だけじゃなくて背筋まで冷えた。

まだ口から飲むことも上手に出来なくて、体も思うように動かない中で必死に生きようとしていたのに、かけられた言葉がイライラした『ヘッタクソ!!』だったら?

あの泣き声はなんて言っていたのか。
『ごめんなさい』でも、『悲しい』でも、『ヒドイ』でも、私はこのことを今でも忘れられないし、ちょっと自分を許せそうにない。

またボロボロ泣きながら首や喉の角度とか、体を支える腕に気を遣いながら口元を哺乳瓶でつつくとおチビさんは上手にミルクを飲めた。

どっちがヘッタクソだよ、バカヤロウ。
自分の都合をぶつけて何がヘッタクソだよ、バカヤロウ。

母なる存在よ、抱かれよ

この出来事の後はとてつもなく落ち込んだ。
あーあ…って力も何も入らなかった。
余裕がない時にどうしても優しく抱き上げられない時がある。

どうしたって動けないし、そんな気力もないのに、抱き上げても物を扱うようになってしまうかもしれない自分が情けなかった。
きっと世間はそんな母親を責めるんだろうな。

あーあ。
どうしたって君はこんな私のとこに来たんだろう?

ぐちぐちぐずぐず。
言葉に出さなくても腐ってふて寝。
そんな私に近付く気配が1つ。

『そんな時はまずお前自身が抱かれよ。

更にひぇっと背筋が冷えた…ついでに伸びた。
脱力して寝込んでたのに、起き上がって正座になる。
なんだってこんな時に!
おチビさんが産まれる時に仰々しく祝祭を上げたっきり、それからぱったりと気配がなかったイザナミのおばあちゃんがいつの間にかいた!

みのりんにとって母なる存在であり、母なる存在を護る神であるイザナミのおばあちゃん…あぁ、怒られちゃうかなとしょげまくった。
けれども、イザナミのおばあちゃんは怒らない。

あの時みたいに両手を広げる。

『どうしても子を愛しく想えぬ時。
どうしても抱き上げれぬ時。
なぜお前たちの創った世は母を責め、冷たく突き放すのだろうな。
違うのだ。
逆だ。
そんな時はまずは母が優しく抱かれなければならぬ。
優しく抱かれるとはどういうことか、その身に受けねばならぬ。
お前たちの世はなぜ子を抱く母を抱こうとせぬのだ。
手を差しのべようとせぬのだ。
そんな存在を余すことなく抱き上げるため…妾の存在は在るのだ。』

人の作った社会の構造はどうしたって不完全。
それでも取り零される命も存在も、その全てを抱くために神々の存在はあるのかもしれない。
その神の御業でさえ、人の作り出した社会の中では限られている救いだとしても。

『健やかに穏やかに眠る御子を見よ。
お前が腹を満たし、柔らかく抱き上げ温めたからだ。
次はお前が抱かれなさい。』

ふわっとまたイザナミのおばあちゃんに抱きしめられて、なんだか心がちょっとだけ柔らかくなった。どうしたって子供を優しく抱き上げられない。
そんな時はその人自身が抱かれる必要がある、らしい。

社会がどうとか関係なく、私はそんな人がいたらまずはイザナミのおばあちゃんがしたようにその人自身を抱きしめてあげようと思う。
許されるなら手を差し伸べたいと思う。

まずはおチビさんを受け止められるだけの自分で在ることが大切だろうけど。

いつだってそんな自分で在れますように。
たつみのりっちの日々にも荒れ模様はあるけれど、確かに自分が作り出せた一時の凪の時間もあった。

イザナミのおばあちゃんは怒らなかった。
抱き締めてくれた。
だからこそ私は私を許さない。
『ふにぇ…。』
イザナミのおばあちゃんの気配の中で穏やかなおチビさんの微かな寝言を聞いた。

たつみのりっちの日々は続く。

リアルな見えない世界の体験を綴ろうと思っています。自分が感じた感覚をそのままに。私の大切にしたい世界が伝わることを願って。見えない世界も大切にしたいと思う方はサポートしてくれると嬉しいです。