産業立国から観光立国へ。

 2023年2月8日財務省は22年の国際収支統計(速報)を発表した。貿易や海外での投資の取引状況を示す経常収支は、11兆4432億円の黒字だった。しかし、黒字額は前年と比べると、大幅に低下し、47.0%も減少した。14年以来8年ぶりの低水準となり、減少額は10兆1478億円で、円安と資源高によるエネルギー関連の輸入額が膨らんだことから、1986年以降で最悪となった。
 経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などから成る。近年、わが国は産業立国、科学立国の方針を転向し、金融立国、観光立国を掲げている。
 といっても、わが国は資源の乏しく、内需にも限界があり、貿易で稼ぐしかない。コロナ禍とウクライナ戦争は不測な災禍だとしても、現在は花形の自動車や半導体の輸出は先細りとなる懸念がある。
 22年の貿易収支は過去最大の15兆7808億円の赤字で、経常黒字を押し下げた。とくに原油と石炭、液化天然ガス(LNG)の値上がりが響いたが、一時1ドル150円台をつけた記録的な円安が輸入価格の上昇に拍車をかけた。この部分は政治や外交が働く余地があるので、政府の努力を期待したい。
 輸入は114兆4711億円と42.0%も増えた一方、輸出は98兆6903億円と19.9%増えた。主要な輸出品は自動車、半導体などの電気機器、機械類が上位3位を占め、輸出入とも最大だったが、輸入の伸びが輸出を大幅に上回った。
 海外投資から得た利子・配当など第1次所得収支は、35兆3087億円の黒字で、32.8%増加し、過去最大を記録した。自動車企業や商社の海外子会社からの配当などが増えたが、サービス収支は5兆6073億円の赤字を示し、前年に比べると赤字は1兆3757億円も膨らんだ。その理由は旅客や貨物輸送、検索連動型のインターネット広告費のほか、自動車や製薬関連の研究開発費の支払いなどが増えた。
 昨年は輸出入と第1次所得収支は過去最大を記録したが、金額が増大したのは円安による影響が大きい。近年、貿易収支の赤字の額が増加しており、さらに円安が進む可能性が高い。一方、外国企業への投資、為替差益、観光には有利に働き、最近は農作物の輸出も注目を集めるようになった。
 ポストコロナを迎え、観光業の回復に大きな期待がある。本来は宿泊、飲食で稼ぎたいところだが、訪日観光客といっても富裕層ばかりではない。これまでの経験から言うと、「爆買い」すなわち買い物によるインバウンドの消費額が最も多かった。40、50年前のわが国の香港ツアーと同様である。

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