天下り人事。

 この1週間ほど複数のメディアは国土交通省の元事務次官が東証プライム上場の空港施設株式会社(東京都)に対し、昨年12月国交省OBの山口副社長を社長に昇格させるよう求めたニュースを一斉に報じた。
 本件は日常茶飯事の省庁や自治体の天下り人事の一例に過ぎないが、これほど内情が赤裸々になるのは珍しい。いかに天下り人事に対する世間の批判が強いかを物語るもので、一段と公務員の横暴に憤りを覚える。
 同社は1970年の設立後2021年まで、国交省OBが同社の社長を代々務めてきた。甲斐前社長の時代に創業以来初の赤字を計上したことから、21年6月開催の株主総会を経て、当時副社長の稲田氏と乘田氏が社長と会長に就任した。
 元々、国家公務員も地方公務員も、窓口の担当者を含めて、役人はエリート国民とうぬぼれており、行政のほとんどの権限、とくに許認可権限を保有していると錯覚し、威張り散らす。高級官僚となると、在籍中は相当高い給料をもらい、公用車を自家用車のごとく意のままに使用し、国民に気付かれないように関連民間企業に接待漬けにされ、金銭感覚がマヒしている。
 また退職時一般労働者には考えられないほどの高額な退職金をもらい、慣例として年金の等級を勝手に最高級に引き上げて天下りするという。特殊法人などで渡りを繰り返し、一人当たり1億円を超える税金を食い逃げするOBもいる。
 公務員の給料は税金から支払われているのに、おしなべて国民のため、住民のため、暮らしやすい社会作りに貢献するという公共の自覚に欠ける。関連する企業や会社に迎合し、汚職などの不正は絶えず、公僕としての精神の片鱗も見られない。
 空港施設は東証プライム上場の企業だが、事業は国有地の使用や貨物施設の賃貸事業に必要な事業者指定など、国交省が多くの許認可権を持つ。資本金は68億円で、従業員約120人、22年は約237億円の売上げがあった。6社のグループ企業を有する。
 昨年6月時点で役員13人のうち3人は国交省OBが占めていた。こうした権限と人事を背景に、同省の元次官で、東京地下鉄(東京メトロ)会長の本田氏が民間企業の空港施設の役員人事に介入した。
 元次官は空港施設を訪ねて自身の立場を「有力なOBの名代」と説明し、山口副社長を社長に就任させれば、「国交省としてあらゆる形でサポートする」と話した。同社の筆頭株主は日本航空(JAL)とANAホールディングスで、JAL出身の乘田社長とANA出身の稲田会長が対応し、「上場企業なので、しっかりした手続きを踏まないとお答えが難しい」と事実上拒否した。
 本田氏らは国交省の意を汲んで現体制を覆し、失地回復を目論んだが、22年4月3日山口氏が退職し、失敗に終わった。関係者の間では多くの許認可権を握る同省は、両航空会社の経営基盤が弱いところへつけ込んで、権限を振り回し、両社を困らせるだろうと囁かれている。
 山口副社長は東京航空局長を歴任し、20年6月同社に天下りした。21年6月国交省側の意向だとして代表権のある現在のポストを自ら要求し、副社長に就いた。さらに国交省の次官を務め、現在も社会的に高い地位の本田氏が有力OBの名代と名乗った以上、組織的な要求だと判断されてもしかたがない。元官僚が民間企業という規制の枠の外で、出身官庁と利害関係にある企業の人事に介入しようとした構図が明確だった。
 空港施設は特殊法人ではないが、これと同様な立場の企業である。官僚が天下る多数の民間企業を含めて、日本道路公団、都市再生機構、域振興整備公団などの特殊法人は、政府と官庁が多くの企業を経営し、またこれにぶら下がる多数の子会社を支配するという形態である。
 本体は効率性が悪く赤字体質でも、子会社は利益を上げるシステムを構築している。業務を独占し、経営力と競争力が働かない体制は、わが国の経済を沈下させる大きな要因にもなっている。
 今一度天下り人事の悪事と弊害に目を向ける必要がある。

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