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オーソドックスなスタンダード

今回「オーソドックスなスタンダード」と題してお送りするのはこちらの靴になります。

黒のショートサイドゴアブーツ

先に仕様を申し上げますと、

宮城興業・謹製誂靴
デザイン:ショートサイドゴアブーツES-171(マルシン靴店オリジナル)
アッパー:キップKI-20(黒)
ライニング:標準#602BG(素上げ)
リブ:シングル巻き
ウエルト:平目付(黒)
ソール:TUFFSTUD
コバ:平(黒)

デザインがマルシン靴店さんの留め紙型であること以外は、すべて宮城興業MTO謹製誂靴の標準的な仕様(アップチャージなし)となっております。いわゆるド・ノーマルですね。

これまでのたかはしのnote記事を読むと毎度毎度、奇妙奇天烈な革靴(しかもホールカット)ばかりをオーダーしているので、平素からヘンテコなホールカットばかりを履いているものと思われているかもしれませんが、結構フツーなのですよワタクシ。むしろホールカット履いてない説すら一部では囁かれております。うぉっほん

実は以前のnote記事「言い訳のかたまり」のネイビー・ショートサイドゴアが狙い通り、いえ期待以上の使い勝手の良さにスッカリ味を占めまして、前回はライニング(腰裏)を共裏にしてもらったのを、今回はさらに簡素化いたしまして、、、というよりかもはや何の撚りも加えずにオーダーしたような体裁です。むしろ退化しとる?

同型色違い

ただそこは拗らせたかはしのことですので、何の撚りもなかった、というわけではけしてなく、捻ってからの360度回転で結果として何の撚りもなくなった、というべきでしょうか。

そのあたりについては、せっかくなので標準仕様と言いつつも例によって各部ごとに仕様を見ていきましょう!


まずは靴のデザインでありますところの、ショートサイドゴア。

今回で唯一、宮城謹製誂靴の標準ではない箇所になります。こちらはマルシン靴店さんオリジナルパターンになりますので、この絶妙な丈感が欲しい方は、マルシン靴店さんにオーダーしてくださいね!(ウインク)

ショートサイドゴアについての能書きは前述のnote記事「言い訳のかたまり」に書いておりますので詳しくは語りませんが、今回仕様の黒スムースレザーにラバーソールのショートサイドゴアというのは、晴雨通年、またドレスコード的にも対応幅が広いという意味で、雨季があり、生活様式として着脱の機会が多い本邦においては万人にオススメできる革靴仕様の一つのテンプレート解答ではないかと思うのです。なんたって出自は議会登院用の由緒正しきお履き物ですからね。

ぶっちゃけ、内羽根ストレートチップ(黒)・外羽根プレーントウ(茶)・ショートサイドゴア(黒)の3足揃えて、キレイにお手入れしてローテーションしとけば革靴沼にハマって抜け出せないということはなかったと思うのです。げふん


次、アッパー。

キップKI-20(黒)

宮城標準スムースのキップ黒です。たぶん宮城MTOでイチバン出ている革だと思うんですよね。もちろん、たかはしの勝手な憶測ですがー。

キップなので、アノネイなどの要アップチャージ革には及びませんが、店頭でオーダー上がりの靴を拝見すると、いわゆる「当たり」や「大当たり」がある、ように見受けられます。

このあたりはどんな銘柄の革であっても天然素材なので個体差があるわけですが、消費量が多い=回転が速い、という要素も大きいのではないかと。パ○ンコとおんなじ理屈ですね。もちろん、たかはしの勝手な憶測ですがー。

ノーチャージの革であっても侮るなかれ、ということです。ハイ

ちなみに当初は、石目調型押しのダークブラウンで誂えようかと考えていたのですが、なんだか見た目がとんでもなく重たくなりそうで、今回コンセプトのショートサイドゴアである意義をスポイルしかねないので、いっそのことスッキリ黒スムースにしてみました。超絶無難な選択ではありますが、スーツスタイルからTシャツGパンまでと前述のとおり使い回しは間違いなく良いですからね。

それと最終的に黒にした理由はもう一つありまして、謹製誂靴の場合、サイドゴムの色は黒と茶があるようなのですが、ゴム底(TUFFSTUD)は黒一択なのですよね。ですので、サイドゴムの色をどっちに寄せるか問題が出てくるわけなのです。(まぁ普通はアッパー本体側に寄せるとは思いますけどね、、、)なので今回は無難にオールブラックでまとめております。

このサイドゴムの色、というのは中々に悩ましく、靴全体の面積に占める割合が意外に大きいので、靴の印象にとても影響します。例えばCARMINAのカスタムシューズですとサイドゴムの色は文字通り色々と選択できるのでの非常に羨ましく思う次第。(ただし修理は日本国内だと部材がなさそう、、、という懸念はあります)

CARMINAのカスタム画面

なお謹製誂靴ですが、使用されているサイドゴムはかなりしっかりとしたものでして、実用革靴という点において、とてもいいパーツを使用されていることを申し添えておきます。

丈夫でヘタりにくい印象

お次、ライニング。

#602BG(素上げ)

実は、イチバン楽しみにしていた部分になります。
ちょうど2年前ぐらいに腰裏革の標準ベージュが素上げ仕様の革に変更になったのを聞いておりまして、試してみたかった、ということもあります。

なおワタクシの宮城謹製誂靴のライニングの経歴としましては、

ホールカット【標準オレンジ】→ホールカット【甲革ネイビー】……ホールカット【甲革ネイビー】→ジョッパーブーツ【デュプイ】→サイドゴアブーツ【甲革ネイビー】→サイドゴアブーツ【標準素上げ】←今ココ!

となります。

まず注意点としまして謹製誂靴は、ホールカットやローファーなどはライニングも一枚革で製甲(かつヒール部分は床面・起毛面側が標準仕様)され、それ以外のデザインの場合は腰裏革より前部は豚革で製甲されます。

またこれまでアップチャージしてお願いしていた腰裏革を甲革キップへの変更も、どうやら出来なくなっているようです。

なので今のライニングの選択肢としては、標準色付き・標準素上げ・デュプイで、あとは販売店が独自で抱えている革があれば、というカンジになるのでしょうか。

以上を踏まえますと、腰裏革の色に特段のこだわりがなければ、質感から標準素上げ一択になるのではないか、という印象があります。

ただし奮発してアノネイなどをアッパーに奢るのでしたら、やはりライニングももう一踏ん張りしてデュプイのライニングを持っていきたいかなぁっ、というところです。特にライニングも一枚革を使用するホールカットは(アップチャージ額も腰裏のみと同プライスでしょうから)検討する価値はあると思います。

ワタクシ、かくもライニングについて、ガタガタ申し上げるのには理由がりまして、経験上、革靴の消耗箇所は、圧倒的にトップリフトに、ソールトウです。ここは交換や補修が容易な箇所なので、消耗品と割り切っています。

そしてその次なのですが、ライニングの損耗なんですよね。ヒールや履き口、小指といったところが当たって摩耗していくという。構造上履いていれば、どうやってもいつかは擦り切れるわけので、パッチや張り替え・貼り増し対応になるのですが、あらかじめ可能な限り延命措置をとっておきたい、という意味でライニングも奢っておきたい、という思いがあります。

それとやはりライニングの選択は、フィッティングに直撃する要素でもあります。


あとはウエルト・コバですが、謹製誂靴の場合、ソールをレザーソール以外にすると、結構選択肢が限られてくるのですね。

なのでソールを宮城ダイナイトことTUFFSTUDにすると決まっている場合、ノーチャージで出来ることはそんなにないのです。

ウエルトの平目付がせいぜいの悪あがき、といったところでしょうか。

平目付

というわけで、使い回しやソールのTUFFSTUDとの色の兼ね合いで、極めてフツーなサイドゴアブーツをオーダーするに至りました。

というよりむしろ、いかにアップチャージを我慢するか、というのが裏テーマでした。えへへ

この手のカスタムメイドは、ちょっとしたオプションであっても盛りに盛ると総額でとんでもないことになってしまうので、そのあたりはメリハリをつけて、ノーチャージの枠内でどうまとめるか、に腐心したのであります。

すると今回は1周回って極めてオーソドックスでスタンダードな仕様になってしまいました(白目)。

完全吊るし(既成品)仕様で、MTOする意味あるのか、という気がしないでもないのですが、そこは無問題、宮城MTOの場合、そんなことは全くないのです。

なぜなら、謹製誂靴は22cm〜30cmでハーフサイズ刻み、ウィズはB〜Fの8段階あります。

ワタクシ、足長は両足とも24cmコンマ前後でして、順当にサイズを選ぶと、24cmのCウィズ、なのでしょうが、カカトが細めだったり母趾先のクリアランスが欲しかったりで、謹製誂靴についてはES木型の24.5cmのBウィズで誂えております。(あと謹製誂靴のCウィズはちょっと特殊で足幅はDウィズと同じで足囲が小さい仕様ということもあります)

逆に捨て寸量の多いCS木型だと、23.5cmのDウィズでもいけなくもなかろうかという気もしています。

というカンジで謹製誂靴の場合、かなりヘンタイ的なサイズの追い込みが可能なのです。(しかも両足別サイズ別ウィズ可)

当然それに比して選択ウィズが変われば、靴のフォルムも変わってくるので、フィッティング的な追い込みもさることながら、シルエット的な追い込み要素もあります。(ES木型でBウィズを選んでいるのもシュッとしたフォルムが気に入っているから、ということもあります)

宮城MTO沼の真骨頂は、単純なパターン数やカスタム具合ではなく、実はこのウィズ地獄天国にこそあるように思うのです。


ただし一方で、選択肢がある、ということは手放しで良いことだ、とは言い切れない、と個人的には思ったりもします。

選択には、ある種の失敗や不正解を内包すること、でもあります。選ぶということは、決断することでもあります。どちらかが正解でどちらかが間違い、であったり、もしかしたらより正解なのかもしれませんし、もっというと両方とも間違い、かもしれません。しかも実際のところ、どうであるのかをホントーに確認をするには両方とも試さないとわからないです。お金に物を言わせることができたとしても、まことに面倒くさいよね、ですね。

三鷹の巨匠もかく申されておいでです

そしてその悩みというのは、より良きを希求するが故であったりもします。

できれば、イッパツで正答を得たいというのが人情というもの。

何より、いきなり最適解を選んだ場合も、1週も2週も廻って選択した場合も、結果出来上がってくるものは同じでしょう。

しかしながら、そこに至るまでにあった、切り離された余白、を含めてこそ、そのモノと私にとっての値打ち、になるように思うのです。

ジュンは普通を目指している。普通に生きていくのは簡単ではない。親も教師も国も奴隷みたいな退屈な生き方は教えてくれるが、普通の生き方というのがどういうものかは教えてくれないからだ。

村上龍『イン ザ・ミソスープ』

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