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"逃亡日記" 第13夜 記憶でたどる"環世界の遠近法"

2022年5月も終わりに近づいて、今年もまた真夏日の頃になった…けど。
1年前(2021年)の5月の初め、私は体感気温4℃の北九州市で雨と風に震えながらもドキドキが止まらなかった。
今だから(時効だよね?w)書ける記憶の中の落合アート。

1 そのころの世界

2020年3月から始まった行動制限(全国の学校が閉鎖になった)、2020年4-5月と2021年1-2月の緊急事態宣言を超えて、世界がようやく開く…と思った2021年4月末。
3度目の緊急事態宣言…学校・美術館・図書館は臨時閉館。職場(未就学施設)で陽性者が出たら謝罪文を出して臨時休園、PCR検査と施設の消毒。ニュースでは毎日繁華街の様子が映され、あえて外出する理由をインタビューされてた。

…箱に閉じ込められる絶望感…。

ただ感染がいったん落ち着いている地方では、日常が戻りつつもあった(その時は)

そんな中で、2021.4.29から落合陽一さんの新作を含む個展"環世界の遠近法 -時間と空間、計算機自然と芸術-"(北九州未来創造芸術祭Art for SDGsの一会場として)の展示が始まった。


…アート成分不足と絶望感から脱出したくて…落合アートがどうしても観たくて…日帰りならきっとバレないから…
自分で自分に言い訳しながら、誰にも何も言わず、私はこっそり新幹線のチケットを予約した…。

2 "環世界の遠近法 -時空と空間、計算機自然と芸術-


今回の展示は、北九州いのちのたび博物館に収蔵された膨大なアーカイブがモチーフになってる。キービジュアルはアンモナイトの化石。

メイン会場に入る前の細長い空間で、巨大な写真群に囲まれると、自分の身体が突然小さくなる感覚…これが…環世界の視点?こどもの視線?…いやネコの視線?うわ…めまいがする。

※環世界についてはユクスキュルの"生物から見た世界"が有名な参考図書ですが…個人的には↓わかりやすいかも?



会場内は真っ暗で、静かな環境音が流れてる…イルカの声?女性の声?知らない楽器がリズムを刻む。(この時の音を記録し損ねたのが今でも悔やまれるっ💦…めっちゃ好きな音だったのに…)


遠近法"は落合さんの言葉を借りれば"近いものは小さく見え、遠いものは大きく見える"…てことらしい。

そのコンセプトは、入口にちょこんと置かれた7cmほどの貝の化石が1億画素(‼︎)で撮影され2mほどのパネルに焼き付けられた写真作品で圧倒的に納得させられる…薄青い光に照らされた化石はどこまでも緻密な構造をガラスのように骨のように美しく光らせて静かに佇んでいる。


中央の壁面全体は、明るい色に照らされた…さまざまな瓶詰め標本たち。100年前からずーっとホルマリンの中で眠る猫や回虫や植物はこれからも永遠の夢を見るのかな…それは美しい悪夢にも見えるよ。


体育館ほどの空間の中に、白い幕がまるく垂らされところがある。
弧を描く狭い"参道"の向こうに…1番観たかった作品があった。

"環世界の遠近法"

小さなポジフィルムに閉じ込められた色鮮やかな蝶や昆虫たち。真夏の太陽のような"点光源レーザー"で照らされたフィルムは、ゆるゆると左右に移り変わり、白い幕に幻灯のような像を結ぶ。静かな機械音。
ここは…神殿なんだ…。そっか…さっきの道は胎道だったのか…。


これだけ繊細なメディアアートだから、もう会えないのかもしれないなぁ…

"質量のあるものは壊れる、質量のないものは忘れる"…っていう落合さんの言葉を思い出す。自分の記憶のフックのために、写真や動画を撮る。



幕から出ると、天井から吊るされた巨大なクジラの骨が淡い光に浮かんでいる。
…デカい…。想像してたより大きくてずっしりと重そう。…四方を囲むたくさんのX…?

途端に光が消えて、ざぁぁ…という扇風機のような…波のような…音が大きく響きだした。
たくさんのXは高速回転しながらホログラムを投影する"3Dホログラムサイネージ"
波が砕け、血管のような線が伸び、炎が揺れ、青い無数のチョウが飛び交う…ホログラムがクジラの骨の周りに浮かびあがる。


■3D Phantom(R)を使用した作品「生と死の環世界,質量ある自然と非質量の自然の間に」について
コビレゴンドウの骨を眺めながら,観念的な情報の海と死後の世界について考えている.朧げな記憶,光と闇,生と死,物質と生命,環世界の始まりと終わりの間.計算機自然,それは質量ある自然と質量のない自然が融合した新しい自然.そこにあるのは生きているものと死んでいるものが等価に存在する世界なのかもしれない.産まれ出る姿はデジタルでもアナログでも可能なのかもしれない.そして死は身体喪失と直接的な等価関係ではなくなるかもしれない.そんな環世界をイメージしながらコビレゴンドウを通じて描いた.
https://www.atpress.ne.jp/news/257516


あぁ…これも、この空間だから博物館内だから観られる作品なのか… 

贅沢だ…こんな贅沢に"生と死"を突きつけられたら…生きてくしかないじゃない…‼︎
切ないけど。


展示室を出ると、親子連れで賑わう博物館スペースに出て、なんだかほっとした。

※この時の展示を3Dで観られるコンテンツが2022年5月現在も公開中です✨ぜひ‼︎

3 ちょっと寄り道 -門司港へ-


博物館を出ると、雨がやんで日がさしてきた。
ちょっと寄り道して、門司港へ。
レトロ建築と瓦そばで有名な観光地も、この時は季節外れの寒さとコロナで、こわいくらいがらんとしてた。古い古い夢にまどろむ建物たち。

…クノップフの"見捨てられた街"を思い出す

クノップフ 1904 ベルギー王立美術館蔵

※2022/5のインスタを見ると、おしゃれなカフェも開いててインスタ女子とカップルで賑わってるので、ほんとにこの時はある意味貴重…カフェには行きたかった…🍮(涙)

瓦そばはじゅうじゅうと湯気を上げて熱々で(ほんと瓦にのっけてサーブされる‼︎)出汁と豚肉のコクとカリッとした茶そばのハーモニーが絶品だった。寒さに凍えた身体に沁みわたる…!

"逃げ恥"で見てから食べたかった✨

4 旅のおわり

"落合陽一展を観に行こう"…こんな時にでもそう決心させてしまうとは…おそるべき中毒性だぞ落合陽一…。

でも決心したら、機動力が動き出し、ルートや気温チェック、服装とカバンの準備、noteを購読して(まんまと課金してる…)事前調査を終えて、ワクワクしすぎないよう睡眠。
朝日で目覚めて(よく寝たー)準備。飛行機じゃないから慌てない…けど妙な緊張感と誰にも言えない後ろめたさと静かなテンション。

気がつくと緊急事態宣言外にいて…申し訳ないなと思いながらも、「日常」にほっとする 
(あー…これが疎開というやつかー)
雨も肌寒さもケンカするカップルも高速移動する振動と音も、閉じていた感覚が呼び戻される。

しかし寒い。コートでよかった。

東京からの帰り、いつまでも夕焼けを見ているが好きだけど、早送りの長い黄昏を見ているのも悪くない。ずっと雲と空ばかり見ている贅沢。
物理的、身体的な、デジタルではない疲労。
帰宅して飲む一杯の大好きな香りの紅茶と温かいお風呂は何よりのご褒美。
2021/5/2

…と、以上当時の日記から🤣
なかなかの覚悟でした…って笑えるのは、コロナがおさまりつつある今だから。

この時感じた"生と死と時間"が、今も心の底にあって、"やりたいことは、できるときにする"が今の信条です✨
(そして落合アートへの愛はつづく…♡)

読んでくださってありがとう🌟ぽちぽち書いていきますね。