テキスト~ヒトリ~

 密林の中をヒトリのヒクイドリが歩き回っていた

 歩き疲れては、木々の切れ間から覗く空を見上げていた

 いつから自分はあの空を忘れてしまったのだろうか

 あの空から忘れられてしまったのだろうか

 ヒクイドリはとぼとぼと密林の中を行く

 歩き疲れては、空を見上げる


 その空にはヒトリのヒノトリが飛んでいた

 飛び疲れたヒノトリは宿り木を探していた

 けれど、炎を体にまとったヒノトリはどこにでも降り立てるわけではなかった

 最適なのは火山の火口

 さもなければ周囲を燃やし尽くす心配のない水辺だろうか

 けれど、水辺では休息もままならない

 ヒノトリを包む炎が嫌がるからだ

 ヒノトリは疲れきっていた

 宿り木を探していた


 ヒクイドリは空を見上げていた


 ヒノトリは宿り木を探していた


 ヒクイドリが見上げていたいた場所は、密林を抜けた湖の畔だった


 ヒノトリが宿り木を探していた場所は、密林を抜けた湖の畔だった


 ヒトリのヒクイドリと、ヒトリのヒノトリが出会った


 ヒクイドリは驚いた

 目の前には見たこともないような、炎を身にまとった黄金色に輝く美しい鳥がいた

 なんだろうこれは

 ヒクイドリは湖面に映る己の姿と見比べた

 なんと醜いことだろうか

 ヒクイドリは絶望に暮れて溜息をついた

 溜息は、小さな炎となった


 ヒノトリは驚いた

 目の前には見たこともないような勇ましい鳥がいた

 口から炎を吐き、こちらを見遣る堂々たる姿に見惚れていた


 お願いがあります

 ヒノトリは言った

 私はこの水辺ではこの身をまとう炎と相いれずに、ひと時も休むことができません

 ですから、どこかに適当な宿り木を探していたおります

 できれば溶岩の湧く火口か、もしくは周りを焼くことのない岩場はありませんでしょうか


 難しいですね

 ヒクイドリは答えた

 私はこの密林で生まれ育ちましたが、ついぞ溶岩の湧く火口も、木々の生えない岩場にも行ったことはありませぬ

 困りましたね

 ただ、私はヒクイドリです

 あなたが休む間だけ、あなたの身をまとう炎を食べて消してしまいましょうか


 そんなことができるのですか

 ヒノトリは驚いた

 では、お願いいたします

 少しの間だけ、私の炎を消してください


 わかりました

 ヒクイドリは了承します

 ヒクイドリはヒノトリの身をまとう炎を隅々まで食い尽くしました

 炎の消えたヒノトリは、生まれてはじめて周囲を気にせずに休息をとることができました


 すっかりと疲れを癒したころ、ようやくヒノトリは眠りから覚めます

 ヒノトリが目覚めると、目の前にいたヒクイドリの姿はありませんでした

 ヒノトリは困りました

 炎を消してもらったお礼を伝えていなかったからです

 でも、仕方ありません

 ヒノトリは諦めて空へと飛び上がりました

 けれど

 炎を失ったヒノトリは

 真っ逆さまに湖へと落ちていきました

 湖に映っていた姿は

 まるでヒクイドリだったのです


 ヒノトリの炎を食い尽くしたヒクイドリは、眠ってしまったヒノトリを見ていました

 その姿が、どんどんと己と同じ醜い姿へ変わっていく様を

 なんだこれは

 恐怖に駆られたヒクイドリは、その場から逃げ去ろうと走り出しました

 けれど

 炎を身にまとってしまったヒクイドリは

 いつしか空へと飛び上がってしまいました

 湖に映っていた姿は

 まるでヒノトリだったのです


 密林の中をヒトリのヒクイドリが歩き回っていた

 歩き疲れては、木々の切れ間から覗く空を見上げていた

 いつから自分はあの空を忘れてしまったのだろうか

 あの空から忘れられてしまったのだろうか

 ヒクイドリはとぼとぼと密林の中を行く

 歩き疲れては、空を見上げる


 その空にはヒトリのヒノトリが飛んでいた

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