『セイフティ・ワーク』①
厄介事というものは、往々にして閉店間際に持ち込まれるものだ。
世界が夜の帳に覆われて幾ばくか。喫茶リコリコも閉店準備に入った頃……彼女は来店した。
扉に付けられたカウベルをカランカランと鳴らして入店してきたのは、薄手のパーカーを羽織った女性――伊藤。常連の三十路前後の女性漫画家だ。
たきなは「いらっしゃいませ」の言葉を発すると共に、ちらりと時計を見やった。
閉店三一分前。
他店同様、喫茶リコリコも三〇分前がラストオーダーである。閉店後のゲーム会があるときは当然そこらはあやふやになるが、今夜その予定はない。
表にかかっている『OPEN』のかけ看板をひっくり返していないものの、それでもたきなはカウンター内にいたミカの顔を確認する。彼は小さく頷いた。
「どうぞ」