ファントムメナス⑩
リコリコの硬い床に投げられ、そのまま押さえ込まれていた阿久津が、ミカの太い肩をタップする。
「おぉ、すまん」
ミカがのけると、阿久津は意外なほど軽やかに立ち上がり、スーツを軽く叩くようにして払い、上着の裾を引っ張って皺を伸ばし、最後に襟も直す。
クルミも〝フン〟と鼻息を吹いて、淹れてもらっていたココアを口にする。それでようやく心が落ち着いてきた。
自分もまだまだだな、とクルミは思う。
荒事含め、多くの人間と様々なやりとりを経てきたつもりでいたが、目の前の人間相手のそれとなると、まだ未熟だ。