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『フキの恩返し』③


 買い物中、フキはずっと「おい」「待てよ」「なぁ」「おい」と声をかけ続けるも、千束は結局喫茶リコリコに到着するまで、無視を貫いていた。

 たっだいまー! と声を上げつつ入店していく千束に、フキも恐る恐る続いていくと……店内は、暗い。

「何だ、この店、今日は何でこんな感じなんだ……」
「そりゃ今日お休みだから」
「………………じゃ、先生は?」
「いないよ?」
「いねぇのかよ!? だったら最初からそう言えよ!?」
「いるとも言ってないじゃん」
「隠すなっつってんだよ!」
「いや、ほら、フキがテンパってるのがおもしろ――」
「てめぇ」
「冗談、冗談。先生達は今日、町内会でゴミ拾いやってんの。たきなとミズ……キは逃げたんだったか。いつ終わるかわかんないから、いるかもしれないし、いないかもしれないってわけで」
千束おまえは?」
「どこかの誰かに呼び出されたからさ。……あー仕方ない仕方ない! 行きたかったのになーゴミ拾い!」
「……やけに簡単に応じたと思ったら、そういう事か……」
「ウィン=ウィンの関係って最高じゃない?」
「まぁいい、状況は理解した。おっぱじめんぞ」

 えっらそぅに。千束はそんな風に鼻で笑うも、いそいそとホットプレートを、店の小上がりになっている座敷席のちゃぶ台にセッティングしていく。

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