『Cough』④
早朝、六時半。たきなは町を歩いていた。
昨日千束が食べたいと言っていた赤飯を求め、早朝にやっているという朝市を目指しているのだ。
目指しているのはキラキラ橘商店街……なのだが、これが喫茶リコリコからもたきなの現在の住居から微妙に遠かった。
何せ、喫茶リコリコは旧電波塔の南側だが、キラキラ橘商店街は東側なのだ。片道三キロとまでは行かないにせよ、二キロはある。
ただ、季節はまだ初夏というにはおこがましい頃合い。空が晴れ渡っているせいもあって、歩いているとこの上なく心地よく、長い道のりもさほど苦ではない。
特に、最短ルートを選んだことで、普段ならばまず通らないような裏道を行くことになったのだが、それがまた良かった。