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中国の強さの裏に「丸テーブル」の影あり

《 ライチ局長の勝手にチャイナ Vol.3 》

中国に関わって何年にもなるが、ずっと変わらずに敬意を抱いているのが中華料理の丸テーブルだ。

通常、中国の丸テーブルにはターンテーブルが置かれ、料理が時計回りに自分の前に流れてくる。美味しそうに盛りつけされた熱々の料理が、どんどん自分に近づいてくる感覚は何度味わっても良いものだ。

こうした中華料理は、概ね人数+数品くらいの分量で注文する。
円卓では、概ね10人くらいが適正人数だ。10人集まれば10種類以上の料理が並ぶことになる。人数が少ないと、逆に注文できる料理数は少なくなる。料理の品数を増やし、見栄えもよくするためにも、人数はなるべく多い方がいい。

だから、中国人はよく丸テーブルの宴席にたくさんの友人を連れてくる。
人数が増えることに対してホストは嫌な顔をしない。

そうなると、自然に友人の友人という形で知り合いが増えていくということになる。
料理を美味しくたくさん食べたいという欲望が、新しい友人を次々に引き寄せていく。丸テーブルが引き起こす中華ミラクルである。

これは本当に大事なことで、親族や友人を介した強固な人的ネットワークが中華圏に生まれてくる背景には、実は丸テーブルが関係しているのではないかとまで疑っている。

考えてみると、日本の居酒屋には、通常この手の仕掛けはない。
友人との飲み会に、別の知人を連れて行こうと思ったら、まず友人に断りを入れ、なぜ連れてくるのか理由を説明しようとするだろう。そこには、軽いながらも、ちょっとしたハードルがある。10人くらい集めた方が美味しく食べれるから…、なんて理由は通用しない。

よって日本では、放っておいても友人の友人という形では交友関係は広がっていきにくい。
「●●交流会」とかの名前をつけた特別な場を設定することで、友人を増やす環境を作り出していく必要があるのだ。

たかが丸テーブルだが、されど丸テーブルである。

また、丸テーブルにも席順というのがある。入り口から最も遠い席が上座だ。
だが、ここに一番のお客様が座るというわけではない。通常は、ホストがこの位置に座り、右側と左側に来賓を据えることになる。そこから、もてなす側ともてなされる側が交互に配置される形で、下座まで席が決められて行く。

こうして、知っている人と知らない人が混在しながら着席した食卓…。

ここで、丸テーブルの威力が改めて炸裂する。

まず、ホスト側は、料理がまわってきたら、自ら料理を左右の来賓に取り分ける。これこそおもてなしの真髄だ。「これは●●の料理と言って…」と、確実に会話が発生する。

そして、お酒だ。

日本でのお酒は手酌をさせないことに神経を使うが、中国でのお酒は一人で飲ませないことに神経を使う。

お酒はみんなで楽しむべし、と考える中国人は、決して一人ではお酒を口にしない。酒を飲む時は、必ず誰かに乾杯を求めて「今日はありがとう!」とか、「お前の●●を祝おう!」とか、何か適当に相応しい言葉をかけながら、グラスを合わせる。

その上、乾杯は、通常、お酒を一気に飲み干さなければならない。

そして、それにも、大まかな流れがある。

最初は、ホストの掛け声で、全体で乾杯をして始まる。そして、出てきた料理を食べながら、全体での乾杯を数回繰り返す。

すると、次は個別の乾杯が始まる。通常は、ホストから始まって、一人一人に挨拶しながら乾杯してまわる。全体を乾杯しながら一周して、ようやく基本ノルマが終わった感じになる。

後は、会話の流れに合わせて乾杯したり、2周目に入ったりする。当然、最もよく乾杯するのは、自分の左右に座っている人だ。料理のウンチクに耳を傾けながら食事を楽しみ、杯を重ねる。自然と左右の人とは仲良くなってくる。

しかし、丸テーブルのすごいところは、左右の人との関係も築きながら、全体として一つの場を維持できるところである。

最初は、上座のホストが場を仕切るが、一つのテーブルを囲んでいるため、皆近い距離で一つの会話を共有できる。上座から自由に下座に話を振れるし、下座から話に割り込むこともできる。場が和んできたら隣同士の個別の会話が生まれるし、大事な話では一つの話に集中することもできる。

丸テーブルってすげぇ、と感じ入る瞬間である。

日本の場合は、席は通常四角形だ。
人にもよるのだろうが、私は、端っこの席に位置したら、多少発言量が減る。左右のうち片方しかいないのだから、当たり前かもしれない。少なくとも、そんな人が四隅に存在しているということになるだろう。

また、日本の宴席でも、お酌をしてまわるという文化がある。気が利かないタチなので、個人的には苦手な文化だ。

その時、宴席の途中からお酌が始まると席が乱れ始め、最後にはどれが自分の使っていたお皿や箸だったか分からなくなる、ということがある。一旦こうなってしまったら、後は最後の締めの挨拶まで原状回復しないことが多い。

大騒ぎの中、美味しそうな料理を前にして、自分が使ったものかどうか自信が持てない箸を握りしめ、これが丸テーブルだったらな…、と歯痒い思いをするのである。

多少誇張を含めているが、このように丸テーブルは中国流の人的ネットワーク形成には欠かすことができない重要な舞台装置だと思っている。

もちろん、中国がいいとか、日本がいいとかの問題ではない。中国社会は、丸テーブルのおかげで、自然かつスムーズに交友関係を広げていくシステムを内包しているのではないか、と疑っているだけだ。

きっと、そこには中国数千年の歴史の中で培ってきた知恵が詰め込まれていると信じたい。

さて、今日は友人に食事に誘われている。
丸テーブルは、今日もきっといい仕事をしてくれるだろう。


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