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2022年10月のふりかえり|「つづけられることを仕事に」という考え方は明快

今月は出張が多かった。5月の引越の疲れはさすがにとれてきたが、片付けないといけないものは無限。たとえば読むのが遅いのに、本屋さんが好きだとこうなる。

10月◯日

山田貴宏さん(ビオフォルム)と廣瀬俊介さん(風土形成事務所)、そして簑田理香さん(地域編集室)がこの4年ほどかかわってきた、仙台南部の工務店・坂元植林さんの「さとのえ」というモデルハウスが竣工。
見学のお誘いがあり、3人が積み上げてきた徳の恩恵にあずかった。すごくもてなしてもらった。力の出し惜しみのない廣瀬さんの仕事ぶりは、相変わらず素敵。

戦後、日本は国策として核家族化に舵を切り、世帯ごとに家を建て、車や家電を買い…という内需の拡大につとめた。人々がバラバラに個別化してゆくことで経済的に成長した。
その中で、稼いで、社員とその家族を養い、同時に環境や社会を劣化もさせてきた会社が無数にあるわけだけど、重工業が引き起こす公害のようなわかりやすい例に限らず、たとえば住宅産業も…という話はあまり語られない。でも一部の工務店は自覚的だ。

これから人口減少などを背景に、地域工務店の社会的な役割は変わってゆくよな…と思いながら、風通しのいい「さとのえ」で彼らのプレゼンをきいた。ここはもう、スタッフの誰かがなかば暮らしながら開いてゆく方がいいんじゃないか。いわゆるモデルハウスは、音楽のない楽器のようで寂しい。

翌日磐梯山の「ホテリ・アアルト」に立ち寄った。建築家の益子義弘さんたちが手掛けてきた、国立公園の中の保養施設のリフォーム・プロジェクト。
オーナーの宗像さんがここまでの数十年をたくさん聞かせてくれた。建築設計に憧れ、でも建てる側にまわった若者が、懇意の人々と価値を積み重ねている空間。成金の道楽からこういう場所は生まれないと思う。

10月◯日

遠野で3泊4日の「インタビューのワークショップ」。阿部智穂さんが一緒に滞在。毎日ご飯をつくってくれて、みんな腹の底から支えられた。満腹と満足は違うし、美味いのと満たされるのも違うけど、ぜんぶあった。
>彼女のInstagram記事

ワークショップの中の出来事は書かないけど、何度か「言葉が生まれる瞬間」に立ち会えて楽しかったな。借り物でない、自分の言葉で話す人が多い社会は気持ちがいい。このワークショップの中ではその度合いが上がる。

帰り道、東北新幹線の窓から、たくさんの渡り鳥が南下する姿を見た。彼らは夜中も、眠ったまま飛びつづけるそうだ。

10月◯日

息子を要職に、しかもこのタイミングで就けた某首相にあらためて落胆。パブリックであって欲しいことがパブリックになっていない。

10月◯日

朝。「うにくえ」というサイトの取材を受けて(*今月末に公開された)、午後は東京都歴史文化財団/アートポイント計画の仕事で秋葉原の3331へ。10年ほど前からアートポイント(AP)の選定委員の一人で、年に何度かあるミーティングのたび落ち込んで帰る(「専門家でもないのにお前はよく喋るよな…」という自責に苛まされて)。

「3331」は来年の3月末で閉鎖する。元中学校校舎の暫定利用で13年運営されてきたが、恒常的な文化芸術施設として、これから大規模な改修工事が始まるらしい。

10月◯日

12月のイベント「どう?就活」にむけて、今年のゲストとの事前ミーティングが始まった。まずは初日の、さこうもみ(酒向萌実)さんと。

同行した生活工房の担当・中村さんが、さこうさんの話に上気していて愉快。この人に尻尾がついていたらいまごろちぎれてるんじゃない?とか思う。参加申込の受付も始まった。

10月◯日

明石市・泉市長の引退宣言に驚く。永遠にできるわけじゃないし、ここからは流れのつなぎ方にエネルギーを使うんだろう。引き際が次をつくる。

10月◯日

東京を横断して墨田区の曳舟へ。アートプロジェクト「ファンタジア!ファンタジア!」の拠点でワークショップをする日。小人数かつ2時間の小さな仕事だが、自分には〝針の穴にラクダを通す〟ような試みで、実際に通った。小さくて大きい出来事だったな。

途中、10代から付き合いのある岸野雄一が、挨拶がてら顔を覗かせてくれた。元気そう。:-)

10月◯日

神山町でかかわった仕事の一つ「大埜地の集合住宅」が、GOOD DESIGN AWARD 2022の「ベスト100」と、KIDSDESIGN AWARD 2022の「奨励賞」を受賞。

GOOD DESIGN AWARDは賞以上に、審査会のメンバーが真剣に語り合う選考過程に価値があると理解している。上位入賞者にはそのログを公開してもらえるといいんだけどなあ。結構用意の大変な資料づくりへの素敵なフィードバックになるし、めいめいの今後にも役立つと思う。

10月◯日

大阪へ。最近は早割で「こだま」のグリーンを買うことが多い。途中、浜松で降り、駅ビルのカフェで「町の工務店ネット」の二人と打合せ。
工務店のあり方は、大きな社会テーマだと思う。具体的な風景をつくるし、その集積がまちになってゆくわけだし。でも町工の小池さんのように情熱の絶えない人をほかに知らない。

大阪着。2日つづけて大きな会社のミーティング。5月から徐々に始まったこの仕事を通じて、神山の数年間が、働き方研究の実践編だったことを確認している。ありがたい。

会社や組織でも社会の只中でも、理不尽な出来事やなかなか解消されない課題に直面して「なんでこうなっちゃうんだろう?」と漏らすとき、「それは…」と講釈を始める人がいる。たとえば沖縄をはじめとする日本社会の構造的課題について、「日米地位協定が…」とか話し始める。上から目線、とも限らない。

でも彼らの話がたどり着く先に魅力がない。たいてい「だから」「難しい」で終わる。人一倍考えて、勉強もした挙句、解説者のようになっている。なにも生み出さないし、他人の違和感の芽も摘んでしまいかねないので、そうならないように自分も注意したい。

「どう考えても難しい。にもかかわらず」生まれてくる働きが事態をずらしてゆく。わかったような口をきいている暇があったらジタバタする方がいいし、より十分にジタバタするために頭や感性やバイタリティを使う方がいいと思う。

10月◯日

7月末に2日間かかわった若い三人の会社がその後取り組んでいた仕事が、一つ形になったようで、お披露目イベントのお誘いがきた。便りが嬉しい。

10月◯日

穂高へ。自分には今月二度目の「インタビューのワークショップ」を、6名の参加メンバーと4日間歩く。

このワークショップについて最近よく「まだあきない」と話していたが、顔ぶれは毎回違うし、内容はインタビューという個別特殊性の塊だし「あきようがないな」と思い直した。
つまりこの仕事が終わるのは、集中力がつづかなくなるとか、頭や心が以前のように動かなくなるとか、あるいはもっと時間を割きたいことが他に出てきたときだろう。それまで思う存分やってみたい。

滞在した穂高養生園の福田俊介さんは、以前インタビューで「なにをしたかは話せないが、なにが〝起きたか〟なら話せる」と聞かせてくれて、その語り出しが印象に残っている。
意味も価値も、自分がしていることが一体なんなのかということも、すべて事後的に明らかになるのだから、まずはつづければいい。「つづけられることを仕事に」という考え方は明快だ。価値を感じることを見つけて、それをたくさん重ねる。

10月◯日

「とびらプロジェクト」の対話型鑑賞の講座を聴講しに、上野の東京都美術館へ。講師は三ツ木紀英さん(NPO ARDA)。

対話型鑑賞(VTS/Visual Thinking Strategy)は「とびらプロジェクト」のコアテクノロジーで、その実践講座は毎年、連続数回、半年以上に渡り実施されている。

VTSの概要はわかっているつもりで、実際のところはそれほどわかっていないのが気になっていた。聴講は春から2度目。「とびらプロジェクト」が始まって11年目に、ようやくこの時間を持つことができている。実践講座に先駆けて担当する基礎講座を見直す手がかりにも気がついて嬉しい。ホクホクした気持ちで帰宅した。


10月をふりかえると、神山の仲間たちの相談、東京の小さな会社の相談、関西の大きな会社の相談に応じながら、あらためて「働き方」について考える時間が多かった。

20〜30代前半の自分には、オフィスレイアウトや、就労制度や、ミーティング手法の再検討が働き方の研究だったが、追って「仕事の意味」が重要だと考えるようになり、神山の7〜8年に至って「習慣化」と「文化にしてゆくこと」が〝働き方の実装〟だと思うようになった。

「働き方」の再構築は、その対象をルーティンワークにするかプロジェクトワークに設定するかで変わる。いずれにしても、

 ・新しい組み合わせ
 ・欲しい未来を一緒に経験する
 ・経験の共有、いい事務局、習慣化の工夫

が大事で、結果として「できることが増えたり、物事が生まれやすくなる」といった変化が組織や、あるいは地域にも生じる。つまり世代交代が可能な組織や地域になってゆく。
福利厚生や行政サービスの拡充でなく、協働的な試みの先でエンゲージメントが高まってゆくのはいいことだと思う。当事者性の高い納得感が形成されるから。

小さな会社も、大きな会社も、VMV(ビジョン・ミッション・バリュー)のたぐいを言葉にまとめる努力をする。
ただ言葉の特質は抽象性にあるので、それらと現場の人びとの個別的な気持ちの間は、具体的な経験でつなぐ方がいい。そこでまた言葉を増やしてゆくと、雲を掴むような気持ちが膨らんでしまいやすいと思う。

具体的な経験とはすなわち「プロジェクト」で、やっぱりそこから物事が生まれるんだよな…と、10月はよく考えていた。