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MEETING #13 Walker Art Cenerで体験した1年の話|白石宏子さん × 西村佳哲

13回目の『MEETING』は、2本前の〝番外編 「どう?就活」Vol.2 stillwater additional talk〟の続編。stillwaterの白石宏子さんが、十数年前、米国・ミネアポリスに滞在した一年間毎日のように通って「半分以上はアート鑑賞以外の使い方をしていた」「そこですごしていた」と語る現代美術館・Walker Art Cenerの体験を振り返る90分。

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私は11年前にリニューアルオープンした東京都美術館のアート・コミュニケーション事業「とびらプロジェクト」にかかわり、その基礎講座の一部を担当してきた。12年目になる今年は講座の内容を見直したいと思い、美術館の社会的役割についてもあらためて考えているところ。

同じく「とびら」にかかわってきた日比野克彦さんは、岐阜県美や熊本市現美の館長で、昨年から東京藝大の学長に就いた。夏に交わした学内誌用のインタビューで、

東京藝術大学に関連する団体・企業・自治体、それぞれの課題について「アートでなんか出来るの?」と訊かれたとして、「出来ますよ!」って宣言しているわけです。もう、すべてのものに有効だと(笑)。
(中略)
熊本市現代美術館では、最近市役所に御用聞きに行ってるんです。「困ったことありませんかー」「いまなにが課題ですかー?」って。少子化とか、市街地がどう看板がどうといった苦情とか、市役所には社会課題が山積みになっていて、「美術館とそれに取り組んでみませんか?」という働きかけを始めている。

と語っていた。 >『藝える』第11号[PDF]
彼は美術大学や美術館を、いまの社会とつなぎ直してその存在価値を再構築しようとしている。

美術館は仕事でかかわってきたし、個人的に好きな場所でもある。

でも、興味のある展覧会があれば観に行く程度で、それほど頻繁に足を運んではいない。そんな中、別の仕事で会った白石さんがある美術館について「毎日のように通った」「(それがあるから)ここで生きていけると思った」と語っていたものだから、その話をもっと聞かせてくださいと考えたわけだ。

本当にそこですごすのが好きだったんですよね

白石さん 週に4〜5回は通っていた。毎月第一土曜日は「フリーサタデー」といって、その日に合わせていろいろなアクティビティが用意されている。無料で。いろんなワークショップ。読み聞かせ。パフォーミングアーツも、映画も、ライブも。フルスロットで(笑)。
ガーデン(外の緑地)でも人々がびっしりすごしている。その日は普段、美術館に来ないだろう人たちも来る。たとえばソマリアの難民の方々とか。

日本にいるときは「観たい展覧会が来ていたらいく」という感じだけど、向こうの友だちは「散歩しよう」ってウォーカーに行っていた。美術館を本当に使い込んだな。

──美術館を使い込んでいる人って、あまりいない気がする(笑)。そういうものとしてつくられていないからな。

白石 ウォーカーは、タッチポイントがたくさん用意されている美術館だったかも。たとえば食べに行く。ギフトを選びに行く。気になる映画や演劇を見に行く。コンベンションもいっぱいあるし、ただすごしに行くこともできる。建物の2/3くらいはパブリックスペースだったんじゃないかな。

ある場所が、その地域ですごすことを支えている。それにすごく衝撃を受けた。
「Art Cener」と名乗っているところに意味があるのかも。「Museum」じゃないですもんね。みんな半分以上アートを見に行く以外の使い方をしていた。それはあの美術館の懐だと思っていたけど、美術館じゃなかったからなのか…って、いま話しながら。

「市民に愛されている」ということ

白石 ボランティアは随時募集。登録はA4一枚くらいのシートに記入して、私は6〜7つの項目から「インフォガイド」「アートメイキングのサポート」「イベントのチケッティング」を選んで、それでもう忙しくなった(笑)。

面接は30分くらい。研修はない。ボランティア担当の女性スタッフが一人いるだけで、彼女からメールが届いて、シフトに入力して、当日行くと他のボランティアが集まっていてチームでこなす。建築のガイドについては、資料を渡されてそれを読んで。

美術館スタッフは30〜50人くらいかな。多くない印象。あまり表に出てこなかった。イベントの運用はほとんどボランティアで......信頼度がすごいですよね。自由度があるけど、組織立っていて不思議。なんでそれが成立するんだろう?

──基盤にシチズンシップがある気がしてきた。美術館に行くと〝人がいる〟って面白いね。しかも調整(研修等を)されていない。

白石 すごしやすかった余白の質には、ボランティアの存在も影響していたと思う。開かれた空気感は彼らが持っていた。そのボランティアは市民。「市民に愛されている」ということがいちばんの要素で、それが「Walker Art Cener」を活性化させていると思う。


上のテキストは白石さんのお話の、自分用ダイジェスト。関心があれば音源を聴いてみてください。

途中で「ロンドンにもありそう」と話していたのはバービカン・センターのこと(ヨーロッパ最大の文化施設)。話を聞くにつれ、自分が文化施設についてまるでわかっていないことを痛感。次第にしどろもどろになってゆくのは、話を聞きながら落ち込んでいるんですね。勉強しないとな。

スティルウォーターは以前、須賀川の市民交流センター「tette」のコミュニケーションデザインにもかかわっている。青木裕子さんも交えたアフタートークで聞いた須賀川の話も素敵だった。知らないことばかりだ。

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