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終幕

  人生は回転する劇場だ。矢継ぎ早に景色が切り替わり、数秒前の世界は何処にもない。もはや原型を留めずに、流水の如く滴り落ちる。刹那的な映像の連続。彼方此方で生命が増えては減り、産声と断末魔が二重奏となって耳を裂く。肉体という入れ物を使い其々の五感が捉える風景を、ただ整然と組み上げて、惑星の息遣いは解釈される。幾許かを手に取り、エゴイズムを以て脳に吸わせる。それを繰り返す。組合せ、色遣い、外敵、そしてタイミング。恣意的な拡張世界論。

  先カンブリア時代、神はいなかった。森羅万象を超越した普遍存在を、確かに魂が求めたのだ。須ク信仰ハ此レヲ過タヌベシ。矢尻に毒を塗っては生命を踏み倒し、ある時は王を担ぎ、またある時は悪辣を吐く。戦争の火種、有限の地下資源。この宇宙船地球号の上で、我々はただ運命を蒙昧に信じ、こっそりと懐に隠して石の上を歩く。途方もないこの、虚構の物語を嘲るのはいつも、肥大化した感情の行く末だ。バランスをとって綱を渡るのだ。確かな一歩一歩を踏みしめて。

  ただ信じる。そしていつかは、デウス・エクス・マキナがひらりと現れ、白くなめらかな袖を広げ、枯れた大地を砕く。ムスペルを率いたスルトのラグナロクを、開いた瞳孔に光らせるかもしれない。荘重を纏ったアルカイック・スマイルに、我々は心を奪われるだろう。とうとう打ち立てられた生命の、歴史の、系譜の、己が孤独の終着点を、ただ目印としてありがたがるのだろう。

袖/目印

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